2015年4月18日
奥秩父:日帰り
三宝山:ペース厳守で日帰り三方山縦走。

広々した山頂の三宝山。


奥秩父の名峰と言うと、金峰山、両神山・・・そして、甲武信ヶ岳辺りが思い浮かぶ。どれも日本百名山に選ばれており、その影響力は絶大だ。中でも甲州、武州(武蔵)、信州の三国を分かつ甲武信(こぶし)ヶ岳は、山名からしていかにも名峰らしい趣がある。

しかし、山容については名峰らしからず実に小ぢんまりとしている。
これについては日本百名山の著者である深田久弥氏も以下のように記している。

頂上に祠もなければ、三角点もない。奥秩父でも、甲武信より高い峰に国師や朝日があり、山容から言ってもすぐ北の三宝山の方が堂々としている。甲武信は決して目立った山ではない。

日本百名山より



ここで出てくる『三宝山』に注目したい。

その昔、今で言う『木賊山』『甲武信ヶ岳』『三宝山』の三山は『三方山』の総称で呼ばれていた。その後、三角点設置の測量と共にそれぞれのピークに山名が付けられ、その中でも標高が最も高く山容が立派な山に『三宝(方)山』の名称が与えられる。いわば代表格だ。だが、洒落た『甲武信ヶ岳』の名称を前に『三宝山』はすっかり影を潜めてしまい、更には甲武信ヶ岳が日本百名山として紹介された事で知名度の差は歴然となった。今となっては甲武信ヶ岳に比べ、三宝山を目指す登山者は限りなく少ないのは間違いない。

そこで今回の山行。
三方山縦走で『三宝山』の立派さを体感するのが目的となる。




早朝の西沢渓谷駐車場からスタート。


まだ薄暗い内に西沢渓谷駐車場に移動。誰もいないかと思いきや、何人かの登山者が準備中だった。皆さん甲武信ヶ岳を目指すらしい。

流石は日本百名山。人気者だ。

私も甲武信ヶ岳まで行ったら引き返すかもしれない。と言うのも、西沢渓谷からでは三宝山は奥深いところに位置しており、甲武信ヶ岳でさえ片道4~5時間は掛かる。日帰りを予定しているため、疲労、もしくは時間切れで引き返す可能性も無くはない。

まあ、長い行程となるので、無理せずにペース厳守で挑もう。

駐車場から10分ほど歩いて山道入り。行きは近丸新道、帰りは徳ちゃん新道を利用しての三方山縦走スタートだ。

この近丸新道には、かつて盛んだった珪石採掘の運搬用トロッコのレールが敷かれている。山道に散らばっている白い石はどうやら珪石のようだ。残雪のような白い珪石を踏みしめ、廃坑となっても残置されている古びたレールにノスタルジーを感じながらボチボチと歩く。

この付近の雪は既に溶けて無くなっているが、土砂崩れで通過するのが気持ち悪い箇所が幾つかあった。降雨後の通過などはとてもおススメできない状態で、山道の一部が流されてレールが宙に浮いている箇所もある。必要以上の震動を与えずそっと歩こう。

たぶん珪石。


ヌク沢を渡って急登となる尾根に乗る。しばらく登るとシャクナゲのトンネルが現れ、それを越えると徳ちゃん新道に合流した。ここからは数年前にも歩いた戸渡尾根を進む。数年前に来た時は、初めての重量を背負った縦走でペース配分も誤ってヘトヘトになった苦い思い出がある。軽装でペース厳守の今回は今のところ問題なく、余裕をもって三宝山まで行けそうだ。

ここから積雪が目立ち始め、風も冷たくなってくる。ガチガチに凍って滑りやすい箇所も多くなるため足の置き場に注意を払わなければならない。まだ土が露出している箇所もあり、どのタイミングでアイゼンを装着しようか迷っている内に、一つ目の三方山『木賊山』に到着した。

標高の影響か、頭がボワンとして多少の眠気はあるが体は動く。もう土の露出箇所は無いだろうと思い、アイゼンを装着して気分をシャキっとさせて再出発。

木賊山山頂は展望無しだが、途中に甲武信ヶ岳と三宝山が並んで見える場所がある。ずっしりと重量感のある三宝山と比べると、小振りな山容が目立ってしまう甲武信ヶ岳。「山名はカッコいいのに」と、つい思ってしまう。

鞍部まで下り、甲武信小屋の前を通ると、まだ営業はしていないが来週の営業開始に向けて雪掻き作業で忙しそうな従業員(?)の姿が見えた。甲武信小屋にはまた後で寄るため、休まずに甲武信ヶ岳を登り始める。そして、二つ目の三方山『甲武信ヶ岳』に到達した。

眺めは最高。道標に記された『日本百名山』の文字が誇らしく眩いばかりだ。山名の良さだけではなく眺望も申し分なく素晴らしい。小振りな山容云々は別として流石に奥秩父の名峰と言われるだけはある。

これで「ああ満足、さて帰ろうか」とはならない。

北側にずっしりと鎮座している三宝山まで行ってこそ三方山縦走。小休止後に最後の三方山へ向けて出発だ。

木賊山の途中から眺める甲武信ヶ岳と三宝山。


『日本百名山』の文字が眩しい甲武信ヶ岳。


甲武信ヶ岳から見る三宝山。

三宝山への山道は明確。


ここからは、最近人が歩いた形跡が全く無いまっさらな雪面の樹林帯となる。三宝山は主稜線から外れるため、余計に人が入らないのだろう。それでも進むべき山道は明確で、テープなどの目印が無くても木々が山道スペースを空けてくれている。樹林帯を割って一直線に伸びる山道をモーゼ気分で突き進む。
※ざっくり言うとモーゼは海を割った人です。

甲武信ヶ岳から快調に下ったまでは良かったが、三宝山への登りになるといよいよ疲労が出てきた。高度障害もあるのか、途中で一瞬寝ていた気もする。眠気を払いながら黙々と登り続け、三方山縦走最終地点である三宝山に到達した。

広々した山頂には、人の足跡どころか獣の足跡すら無いまっさらな雪で覆われていた。樹林帯のために眺望は一切ない。ただ、開けた山頂の真上には青空が拡がり悠々と雲が流れていた。

真新しい山頂道標に記された『埼玉県最高峰』の堂々たる文字を見ると、「きっと埼玉県民は日本百名山としての甲武信ヶ岳を良く思っていないのだろうなぁ」と勝手に想像してしまう。そもそも、埼玉県最高峰を知っている埼玉県民がどれだけいるのかは疑問だが。

【山頂道標情報】
三宝山の新しい山頂道標は2014年8月27日に豪雨の中で荷揚げされ設置されました。設置された山頂道標は県立秩父農工科学高等学校森林科学科の生徒の手作りだそうです。


悠々とした時間の流れる山頂で思う存分に三宝山を体感した後は、山頂付近にあった岩場に行ってみる。甲武信ヶ岳から三宝山を眺めた時、山頂付近に見晴らしの良さそうな岩場を確認している。木々の向こうには、まさにその岩場が見えるのだから行かない手はない。

雪面を踏み抜かないように樹林帯を抜けると、予想通りに見晴らしの良い巨岩群が現れた。岩場を登ってみると、目の前に拡がるのは素晴らしい眺望。帰宅後、ここは『三宝岩(石)』と呼ばれている事を知った。

神々しさも感じられる三宝岩の上に立つと、正面に甲武信ヶ岳と木賊山が並んで見える。山容の立派さでは間違いなく木賊山の方が上で、比較するとまたしても甲武信ヶ岳の小振りさが目立ってしまう。小柄な私としては、どうしても小振りな甲武信ヶ岳が目につくのだ。悲しいかな。

『埼玉県最高峰』の文字が誇らしい三宝山。


山頂直下にある神々しい三宝岩。


三宝岩からは清々しい眺望が拡がっています。

営業再開の準備で雪掻き中の甲武信小屋。


程よい劣等感で心揺さぶられたところで、ここからは巻き道経由(この時期は雪の状態に注意)で甲武信小屋へと戻る。丁度お昼時なので雪掻き作業は中断され、小屋の中からギターの音色だけが聞こえてくる。これを聞きながら日当たりの良いベンチに横になって少々昼寝。

疲れはしたが気が滅入る程の疲労には至っておらず、三方山を回った満足感でむしろ気は充実している(程よい劣等感を除く)。これもペース厳守のおかげ。まだ日は高く時間にゆとりがあるのも大きなプラス要素だ。この調子のまま長い下山道を下って今回の山行は無事に終了した。

日帰りでは厳しそうな三方山縦走スケジュールだったが、思いのほか順調な足取りでゆとりすら感じられる山行となった。実際に歩いた三宝山は、その堂々たる山容と三宝岩からの素晴らしい眺望との合わせ技で個人的評価は上昇した。それでも甲武信ヶ岳は依然として格好良く、小振りだけれど総合的に見るとやはり名峰なのだと思う。

ただ、三宝山の存在を忘れちゃあいけないな。
(・・・木賊山は?)

漫画的山行記録

その昔、今で言う『木賊山』『甲武信ヶ岳』『三宝山』の三山は『三方山』の総称で呼ばれていました。

その三方山を縦走してきます。

早朝の西沢渓谷駐車場から出発。

では行って参ります。

なれいの滝。

山ノ神を祀る小さな祠に安全登山を祈願します。

近丸新道から入山。

この辺りは珪石採掘地だったためか、白い石(珪石?)が散らばっています。

廃坑となっても残置されている古びたレール沿いに歩きます。

近丸新道は所々に崩れている箇所があるので降雨後などはおススメできません。

謎の跡地を通過。覗くと何かが飛び出てきそう。

ヌク沢の砂防ダム。

ヌク沢を渡ります。頼りない橋だ・・・。

ここから尾根の急登に取り付きます。

おそらく珪石の塊。(鉱石知識ナシ)

お隣の尾根は既に夜が明けています。

こちらも夜明け。あったか・・・いや、暑い!

残雪のように散らばる珪石を踏みしめて登ります。

しゃくなげトンネルが出現。

徳ちゃん新道と合流しました。

標識にはキツネのワンポイント。

ダシも出ないくらいにしゃぶりつくされた何かの骨。

ここから気温は下がり、残雪が目立ってきます。

ガリガリに凍りついた山道を慎重に登ります。

主稜線に乗ったかな。

奥秩父の山々が広がります。

ツイストした樹木。この付近の主っぽい雰囲気です。

一つ目の三方山『木賊山』に到着。

次は甲武信ヶ岳、次いで三宝山を目指します。

鞍部の甲武信小屋。来週の営業再開に向けて雪掻き作業中。

甲武信ヶ岳山頂までもう少し。

二つ目の三方山『甲武信ヶ岳』に到着。『日本百名山』の文字が眩しい。

山頂からは素晴らしい眺望が広がっています。

国師、金峰方面。

八ヶ岳。

そして北側にどっしりと鎮座する三宝山。

ここからは踏み跡ナシ。それでもご覧の通り山道は明確です。

樹林帯を割って一直線に伸びる山道をモーゼ気分で突き進みます。

広々とした三宝山山頂に出ました。

三つ目の三方山『三宝山』。『埼玉県最高峰』の文字が熱い。

ふわぁ、疲れた。

山頂からは樹林帯越しに見晴らしの良さそうな三宝岩が見えます。

当然、三宝岩へ行ってみます。

神々しい三宝岩。

眺望も申し分ありません。

すぐ崖なので注意して。

三方山縦走を終え、三宝山にも満足したのでボチボチ帰ります。

巻き道で甲武信小屋へ。(この時期は雪の状態に注意して下さい)

甲武信小屋にある慰霊碑前に出ました。

まだ営業していない甲武信小屋。

お昼時で雪掻き作業は中断され、中からはギターの音色だけが聞こえてきます。

外のベンチをお借りして昼食休憩。

お湯を注いで3分を待っている図。

さて、木賊山を登り返して帰路に就きますか。

ハア、ハア・・・。

キツネのワンポイントを見て下り始めます。

分岐点まで下りました。もう暑いくらいのポカポカ陽気です。

帰りはこちら。そして、またキツネのワンポイント。

寂しげな尾根を下ります。

シャクナゲの道。

放置したらゴミ、持ち帰れば立派なギア。と言う事で頂きます。

木の葉かと思いきや蝶。

下りは続くよ何処までも。

どういう育ち方をしたのだろうか。

無事に下山しました。

ヌク沢でちょっと一息。

無事な下山を報告。

西沢渓谷駐車場に到着。お疲れ様でした。

ちょっと下った所の桜はイイ感じで咲いていました。

最後は『笛吹きの湯』へ。市民プライス200円で入浴して帰ります(甲州市民も可)。

長い行程でしたがペース厳守のおかげで良い具合の疲労感で山行を終えました。

甲武信小屋に宿泊して周回するのも悪くなさそうです。

おわり

漫画的山行記録
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本日の山行情報

単独行/日帰り/8時間以上歩行/マイカー登山

木賊山(とくさやま)
標高2469m
詳細(外部リンク)
甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)
標高2475m
詳細(外部リンク)
三宝山(さんぽうざん)
標高2483m
詳細(外部リンク)

本日のスケジュール

西沢渓谷駐車場[着] 05:10 - [発] 05:10
 ↓ 20分 舗装/林道
登山口[着] 05:30 - [発] 05:30
 ↓ 100分 近丸新道
合流地点[着] 07:10 - [発] 07:15
 ↓ 95分 戸渡尾根
木賊山[着] 08:50 - [発] 09:05
 ↓ 30分 
甲武信ヶ岳[着] 09:35 - [発] 09:40
 ↓ 50分 
三宝山[着] 10:30 - [発] 10:35
 ↓ 45分 巻き道利用
甲武信小屋[着] 11:20 - [発] 12:10
 ↓ 15分 
木賊山[着] 12:25 - [発] 12:25
 ↓ 65分 戸渡尾根
合流地点[着] 13:30 - [発] 13:35
 ↓ 65分 徳ちゃん新道
登山口[着] 14:40 - [発] 14:40
 ↓ 30分 舗装/林道
西沢渓谷駐車場[着] 15:10 - [発] 15:10

行動時間:8時間35分(休憩含む)

本日のおすすめ(お土産/温泉情報)

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