グッスリ眠って目覚め良く起床。
外はうっすらと明るくなり始めている。
日の出前に出発しようかと思っていたが、昨日知り合ったYさんと話をしていたらスッカリ日が昇ってしまった。
まあ、こんな自由なスケジュール変更や、山中での出会いもまた単独行の醍醐味だ。
このYさん、中々のつわもので、私の親ぐらいのお歳なのに、健脚だし、写真も撮るし、植物にもかなり詳しく、スマホも使いこなす多趣味で若々しい。
そして偶然にも隣街に住むご近所さんとくれば話が合わない訳がない。
天目山へ登るYさんを見送った後、私も本日の目的地である酉谷山へ向けて出発した。
歩いてみると昨日より体調が良いのがわかる。
と言うよりも自分のペースがつかめてきた感じだ。
朝の静けさに耳を傾けながら自分のペースで歩いていると、心地よい気分になってきた。
自分の足音、ザックの軋む音、水筒の中で波打つ水の音。
身の回りから発する音から、今度は何種類かの鳥のさえずりが耳に入ってくる。
風はなく、限られた音だけの静かな世界を感じながら歩く。
日が高くなるにつれて鳥のさえずりが賑やかになり、ハアハアと乱れた呼吸音も混ざってきた。
そろそろ休み頃か。
酉谷山山頂での休憩を予定していたが、その手前の鞍部に、日当たり良好で寝心地がすこぶる良さそうな場所と出会ってしまった。
脇にはその場所を見守るかのように立派な樹木が根付いている。
ここで休んでいきなさい。
昨日に引き続き、天からの声に従い「それでは失礼します」と寝転がる。
見た目通りに居心地は抜群。
果てしなく寝転がっていられる気分だ。
気持ちよく休憩していると、Yさんや小屋で一緒だった登山者に追い付かれてしまう。
さすがにマニア向けと言っても良いだろうこのエリアを歩く方は健脚揃いだ。
そんな皆さんに追い越されてもなお、フリーズドライの梅干をボリボリと食べて寝転がっている私。
こんな事、単独行でなければ出来ない道楽だな。
さて、いい加減先へと進むか。
酉谷山から秩父側の熊倉山へ下るルートは一般山道ではなく、いわゆる破線ルート。持ってきた国土地理院の地形図には破線すら載っていない尾根筋のルートとなる。
踏み跡やリボン等の目印が残っていると調べはついているが、北側斜面のため残雪が多い可能性もある。
マッタリ歩きはここまで。
ここからはピリッと緊張感を持って挑む事にしよう。
まずは酉谷山山頂へ。
到着した酉谷山山頂からは、奥多摩エリア一帯の景色が拡がり、横一列に延びる石尾根上には富士山が浮かんで見える。
そんな好展望の山頂にはYさんが休憩していた。
休憩も兼ねてしばらく話していると、Yさんも私と同じく白久駅方面へ向かうため、一緒に行動する事にする。
それでは破線ルートで下山開始。
尾根上に残雪は無かったが傾斜がキツい。
油断すると落ち葉に足を取られて滑り落ちそうな斜度だ。
地形図でも確認していた通り、下り始めて最初のピークから派生している尾根の分岐点がわかりずらい。
それでもコンパスで進行方向を確認しつつ、尾根を外さなければ問題はなさそうだ。
ひとまず急斜面を下り終えると、踏み跡が明確に残っている歩きやすい山道となった。
ただ、倒木や枝を掻き分けて通過する箇所も多く、縦走装備の大きな荷物ではすぐに引っ掛かってしまう。
そして、ザックにくくり付けていたマットが落ちた事を知らずに、どんどん下山してしまう。
小休止でザックを下ろした時、ようやくマットが無い事に気が付いた。
ふと、過去の山行中に生まれたヨメの名言がよみがえる。
置き去りにすればゴミ。
持ち帰れば立派なギア。
ストックの先に付けるプラスチックの輪っか(?)を、山中で拾った際に飛び出したヨメの名言だ。
この言葉通りに解釈すると、大きめのゴミを放置してしまった事になる。
うむ、これは放っておけない。
Yさんには先に下りてもらい、落としたマットを探すために空身で登り返す事にした。
心当たりのあるポイントまで5分程登り返す。
無い。
空身とは言え、更に登り返すテンションにはなれず、「大人の財源力を活かしてまた購入しよう」と、悪しき消耗社会の化身と化してあっさり諦めてしまう。
Yさんに追い付いてこの事を話すと、山中に落とした300円のカメラキャップを探すため、トコトン登り返した経験を語ってくれた。
その行動理由は何であれ、山中において体力は善だとつくづく思う。
【お願い】
酉谷山~熊倉山区間で折り畳み式マット(サーマレスト)を拾われた方がいましたら、宜しければギアとしてお使い下さい・・・。
※その後『ヤマレコ』にて、山中で発見して酉谷山避難小屋へ寄贈したとの報告を受けました。
拾われた方、ありがとうございました!
破線ルート中の熊倉山付近は、細尾根の岩場が連続する危険箇所がある。
そんな状況でも標高が低くなり気温も高くなったからか、生き生きとした草木が目立つようになってきた。
こうなると植物の知識に長けているYさんの独壇場だ。
『アカヤシオ』も『ミツバツツジ』も、一緒くたに『花』として見ている私に、その名称由来や特徴、種類なども含めて色々と教えてくれる。
似たような姿形で見分けがつき辛い植物などは、その場で教えてもらうのが一番間違いない。
尚且つ、名称だけではなく関連情報も合わせて教えてくれるので、興味も湧いて記憶に残りやすい。(翌日、忘れる可能性大)
山行スピードや記録に縁遠い私としては、こういった山歩き中の楽しみとなる雑学は嬉しいモノだ。
山道脇で見られる花々を楽しみながら、破線ルートを無事に下り終えて熊倉山へ到着した。
ここからは一般山道となる。
しかし、一般山道と思って侮るなかれ。
利用する城山コース(小幡尾根)は林道に合流するまでかなりの急坂で、細尾根箇所もあるため油断は禁物。
しかも低山とは言え、登山口からの標高差は1000mを超える。
昨日からの歩きで疲れが蓄積されてきた私にとっては最後の山場だ。
そこで助けになるのが、またしてもYさんの花解説だ。
イワウチワ、カタクリ、ヒトリシズカ、バイカオウレン。
新たな花を見つける度に解説が始まり、地べたに伏せて写真撮影会。
疲れる隙など無しだ。
なるほど。
これまで出会った多くの花好き登山者が元気な理由を理解できた気がした。
順調に下山して林道に合流。
この辺りまで下ると周囲の色合いが変わり、新緑の美しい季節が到来した事を実感できる。
再び山道に入り、地味に堪える小さなアップダウンを繰り返して白久駅へと下山した。
昨日は大いに苦しんだ今期初となるテント泊装備も、終わってみれば実に清々しく、人との出会いのおかげで好印象の山行となった。
ただ、『ギア』ではなく『ゴミ』を放置したのは心苦しいが・・・。
反省もしたところで、帰りは御花畑駅近くの銭湯『クラブ湯』へ直行だ!