2015年12月5日
奥秩父:1泊2日
破風山(笹平)避難小屋:守りたい山小屋のあり方。

山頂でタバコに火を点ける男の図。(実は鼻をかんでいる)


人が少ない山を歩きたい。

そんなヨメの要望を満たす丁度いいコースを探していた。1泊したいとの希望も出ている。しかし、最近腰を痛めてまだ完治していないヨメにテント泊装備の重量は酷だろうし、完全な冬山装備でなくとも歩けるルートが安心だろう。

つまり、以下の条件となる。



ふうむ・・・と思い悩んで決めた目的地は甲武信ヶ岳。

西沢渓谷から雁坂峠へ登り、雁坂嶺、破風山を越えて破風山(笹平)避難小屋で宿泊。翌日、甲武信ヶ岳へ登って西沢渓谷へと下山するスケジュールとした。

ヨメの全希望を網羅しつつ避難小屋利用で個人的なお財布事情にも完全対応した完璧なるスケジュールに、山行前からしてやったりな気分。

ようし、出発。




頼むぞ、クマ鈴。


下山地点となる西沢渓谷に駐車して雁坂峠登山道へ移動する。しばらく舗装された林道を歩き、日の当たる雁坂峠目指して沢伝いの山道に入った。

人気が無い。

静けさも今回の条件のひとつなのだが、同時に野性動物との遭遇確率も高まる。

この時期は冬眠に向けて腹を空かしたクマも多いだろう。本州に棲息するツキノワグマは基本的に臆病と聞くが、出会い頭の遭遇だけは避けたい。そのためにもこちらの存在を音で知らせながらゆく。

ちなみにクマ鈴の効果には個人的に疑問を持っている。

クマ鈴やラジオの音では興味を示して近づく個体(特に小熊)も少なくないと聞いたことがあり、その情報源がクマ撃ちの経験もある猟師さんなだけに信じ切っている。ものの本にも似たような記述が多く、信憑性の裏付けとしては充分事足りるだろう。もちろん季節や場所にもよりけりだが、直接伺った経験者の言葉は参考にするものだ。

では、クマ除けに適した道具とは。

ペットボトルの「ペコン」という音が効果的らしい。

他には拍手も良いらしいが、手持ち無沙汰で暇な時にやってしまう「ペコン」の音にクマ除け効果があるとは意外だ。自然界からかけ離れた物質の音ということだろうか。何にしてもクマ鈴も装備しつつ、手拍子で歌いながら、ペットボトルをペコペコ鳴らせばクマとの遭遇確率は下げられるだろう。クマ側からしたら「変なのが来た」と迷惑がられそうだが。

実際にはペコンペコンとペットボトルを鳴らすことなく結局、クマ鈴の音を谷間に響かせながら山道を歩く。

快晴、ですが体調は今一つ。


この辺りに積雪は無く、緩やかな傾斜で歩きやすい。沢から離れて傾斜が出てくると、足首まで浸る落ち葉が山道を覆う。フワフワと散り積もった落ち葉を負担なく蹴り上げながら進むと、今度は笹原と青空の清々しい景色に視界が占領される。驚くほど風がない穏やかな快晴に気分は上々だ。

ただ、今一つ調子が出ない。

本調子でないことは起床の瞬間に分かっていた。モッサリした目覚めに、本日の体調は10段階評価で4程度だろうか。歩いている内に調子は戻るだろうと思っていたが、本日は本当にダメな日らしい。こんな時は受け入れるしかない。

ゆっくりゆっくり歩いて到着した雁坂峠は雲ひとつ無い青空。尚且つ無風で山陵歩きには最高の状態だった。

透明感ある冷たい空気が青空の色合いをより深いものとして、強風であるはずの稜線上の木々はピタリと静止している。この空間に富士山も微動だにせず鎮座している。

体調はモッサリでも本日は当たり日だ。

眼下で太陽を反射させる峠沢。


笹原と青空の清々しい景色。


日本三大峠のひとつとされる雁坂峠。

立ち枯れの稜線を進みます。


日本三大峠のひとつとされる雁坂峠は、日本書紀において日本武尊が東方征伐の際に通ったとされ、縄文人も利用していた形跡があることから日本最古の峠と呼ばれている。

雁(渡り鳥)が峰々を越える様子から雁坂峠と呼ばれており(諸説あり)、隣の雁峠や雁ヶ腹摺山等々この付近の山稜には『雁』の付く地名が多く見られる。よほど雁の峠越えが目撃されたのだろう。

何はともあれ快晴の雁坂峠で昼食をとる。ここまで誰ともすれ違っていなかったが、食事中には数人の登山者が行き交い、今も昔も雁にとっても雁坂峠は『峠』として現役なのだと感じる。

お腹も満たされたので、本日の宿泊地である破風山(笹平)避難小屋へと向かう。

目的地まで越えるべきピークは雁坂嶺、東/西破風山の3つ。好むと好まざるとに関わらず越えなければならないピークだ。昼食をとってもモッサリした体調は変わらず、雁坂嶺へと続く緩やかな坂をモッサリと登ってゆく。

稜線を挟んで日当たりの良い山梨側斜面には雪がなく、埼玉側は積雪している状態。しかし、進むにつれて境界線となる山道の積雪量は増えてきた。

積雪と言うより凍っている。

破風山に到着。


東破風山への登りから西破風山の下り区間では、氷と岩のミックス状態が続き、モッサリした体調であっても足の置き場所には細心の注意を払う。

越えるべきピークを越えると、眼下に破風山避難小屋が見えてきた。

破風山避難小屋にはダルマストーブが設置されている情報を事前に得ている。煙突から煙が出ていないところを見ると無人のようだ。雁坂峠以外で人とあっていないし、この時期では誰もいないのは当然か。

大転倒することもなく、日が傾き始めた頃に破風山避難小屋に到着した。

夕焼け色に染まる富士山を背景に、破風山避難小屋の周辺は静まり返っている。冷え込んできたし、暗くなる前に薪を集めて暖をとろう。

そう思って小屋に入ると、クマのようなガタイのオヤジさんが手斧を持って座っていた。

一瞬、言葉が詰まる。

オヤジさんの足元には薪が散らばり、ダルマストーブには火が入っている。傍らにはノコギリや大量の荷物が散乱している。

すぐさまこの状況を察した。
単独行の山男、しかも大ベテランだ。

破風山避難小屋のダルマストーブ。


挨拶すると案の定、ベテランの山男だった。このキコリ(仮称)さんは、破風山避難小屋によく訪れているとのことで、手慣れた手つきで薪を割り、ダルマストーブに薪をくべていた。

70近いお歳で、医者に無理をしないよう警告されているにも関わらず、20kg以上の荷物を担ぎ上げてきたキコリさんの登山歴は50年以上。それも、山から離れていた期間がなく、今でも仕事の合間にトレーニングをしていると言うのが凄い。

そんな現役山男のキコリさんなのだが、驚くべき特徴は他にもある。

威圧的な感じがなく紳士的で謙虚。
そして、お茶目なのだ。

キコリさんは誰に頼まれるでもなく小屋の補修や備品を用意している。私的にはその備品中の掃除用ウェットティッシュに目がいった。

年季の入った手斧をぶら下げウェットティッシュで掃除する山男はお茶目以外の何者でもない(想像です)。綺麗好きなのか、内掃き用ホウキなどお掃除用品が充実しているのも見逃せないお茶目ポイントだ。

そんなお茶目な一面を漂わせつつ語られる話からは、自然に対する誠実さが伝わってくる。同じ歳を重ねるならこんな感じになりたい見本のような人で、山で出会う魅力的な人と共通の雰囲気があった。

破風山避難小屋前で山中の夕暮れを味わいます。


ちなみにキノコ取りにも精通しており、毒キノコとの見分け方は「家に持ち帰って空腹時に油で炒めて食べてみる」だそうだ。吐き気を催すか下したら毒キノコ確定。ただ、「そもそも毒と見分けられないようでは動物としてダメ」と一蹴される。(簡略化して書いています)

※キノコは食べる前に自分で調べたり採取地域で詳しい方に相談するなりしてください!

キコリさんと遅くまで話をして、ふらりと外に出て満天の星空を眺める。

体調は相変わらずモッサリでも、本日は間違いなく当たり日だったな。




朝日を浴びる富士。


翌朝。

キコリさんにお礼を告げて破風山避難小屋を後にする。

本日の体調はまずまずのようだ。

甲武信小屋からは凍ってツルツルの山道を登り甲武信ヶ岳山頂へ。快晴ではないが遠方まで一望できる眺望に、甲武信ヶ岳が初めてとなるヨメも満足気な様子だ。

甲武信小屋にデポ(残置)した荷物を回収して木賊山から戸渡尾根伝いに下山を開始。徳ちゃん新道と近丸新道の分岐点までは、部分的に凍っている状態に悩まされながらも黙々と下山する。

いっそのこと全面凍結していればアイゼンを着けたのだろうが、所々で土が露出しているこの状況ではアイゼン装着を躊躇してしまう。何とか歩き方でカバーしながら確実に標高を下げ、登山口となる西沢山荘まで無事に下山した。

穏やかな天気に恵まれた1泊2日の山行でした。


穏やかな天気に恵まれた1泊2日の山行は、体調万全と言えなくても好印象のまま終えることができた。これもキコリさんとの出会いのお陰でもある。

小屋についたらストーブに火が入れてあり、朝起きても既に火が入っている。

こんな実家暮らし的な状況の避難小屋は特別だとしても、避難小屋も含めた山小屋は管理する方がいてこそ快適に利用できる場所だ。破風山避難小屋に緊急用として備蓄していた食料を何の断りもなく綺麗さっぱり使われてしまう状況を嘆いても、有志で管理し続けるキコリさんの姿に、山小屋のあり方を考えさせられる山行となった。

今度行く時は備蓄用の缶詰とウェットティッシュを持っていかねばな。

漫画的山行記録

西沢渓谷から雁坂峠、甲武信ヶ岳まで縦走してきます。

綺麗そうな破風山(笹平)避難小屋で宿泊する1泊2日山行です。

鶏冠山がカッコ良く見える西沢渓谷駐車場からスタート。

雁坂峠はこちら。

では歩いてお邪魔いたします。

登山ポストはココにあります。(用紙なし)

雁坂トンネルの上部にある雁坂峠へ。

しばらくは舗装された林道歩きです。

綺麗な状態の霜柱を発見。

あ・・・破壊された。

ここから山道入り。

誰もいないのでクマ鈴でこちらの存在をアピール。

コブだらけの木。

ナメラ沢への分岐を通過。

氷のしめ飾り。

ふっさふさのコケ。撫でないと損。

なだらかな支沢を横断。

落ち葉を蹴り上げながら進みます。

下方には太陽を反射する峠沢。

視界が開けてきました。

広がる笹原と快晴の青空。

雁坂峠に到着です。

雁坂峠は日本最古の峠とも呼ばれています。

そんな雁坂峠で昼食タイム。

ぜんざいとチーズをロールパンに挟んで高カロリーサンドの出来上がり。

ああ、食った食った。

歩行を再開して雁坂嶺へ。

雁坂嶺に到着。

あちらの破風山を越えたところに本日の宿泊地があります。

立ち枯れの稜線を進みます。

東破風山を通過。

所々で眺望が開放。

日本庭園のような稜線を進みます。

日が傾いてきました。

破風山に到着。

来たぜ、破風山!

あとは宿泊地の破風山避難小屋まで下るだけ。

夕暮れです。

静かに日没を待つ富士山。

綺麗な破風山避難小屋に到着。

小屋の前では富士山が暮れなずんでいます。

誰もいないと思いきや、有志で管理されている単独行のキコリさん(仮称)がいました。

破風山避難小屋にはダルマストーブが整備されています。

暖のとれる有り難い避難小屋です。

小屋の中から富士山。

キコリさんに御馳走してもらいました。

こちらは持参したディナーのサッポロ一番みそラーメン。

キコリさんと遅くまで話をして夜は更けてゆきます。

綺麗に利用されている破風山避難小屋の状態は守っていきたいですね。

翌朝。

既に火の入ったストーブ。ありがたいです。

朝焼け空です。

富士を眺めるキコリさん。

そして朝日を浴びる富士山。

キコリさんにお礼を告げて破風山避難小屋を後にします。

立ち枯れ地帯を進みます。

しょんぼりな石楠花。また春は来るさ。

見晴らしの効く賽ノ河原まで登りました。

再度、樹林帯に突入。

巻き道経由で甲武信小屋へ向かいます。

甲武信小屋に到着。

今期の営業は既に終えています。

甲武信小屋に荷物をデポ(残置)して甲武信ヶ岳へ。

山道は微妙なツルツル具合です。

甲武信ヶ岳に到着。

国師、金峰へと続く奥秩父主脈縦走路。

木曽山脈(中央アルプス)。

みんな大好き八ヶ岳。

飛騨山脈(北アルプス)。

三宝山と浅間山。

絶景を前にタバコに火を点ける男の図。(実は鼻をかんでいる)

デポした荷物を回収して西沢渓谷へ下山します。

その前に木賊山へ。

ここからはほぼ下り一方。

では下山しましょう。

でっかな珈琲豆を発見。

到着地点はまだまだ下。

苔でも見て一休み。

分岐点です。もう雪も氷もありません。

リンゴ休憩。

社交ダンスの木(勝手に命名)。

輪になってダンスの木(勝手に命名)。

西沢山荘へ下山しました。

無事に下山できました、と。

さんハイっ「「「お疲れっ」」」。

帰りに寄り道。百珍って。

百珍って。

最後は笛吹きの湯でお疲れ様でした。

今回持参して実感した宿泊山行のおすすめ便利グッズを紹介します。

コレ。

これまで購入したどんなサンダルよりも軽量です。

どこで購入できるかって?

100均っすよ。

おわり

漫画的山行記録
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本日の山行情報

複数人山行/1泊2日/避難小屋泊/縦走/マイカー登山

雁坂嶺(かりさかれい)
標高2289m
破風山(はふうさん)
標高2318m
甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)
標高2475m
詳細(外部リンク)
木賊山(とくさやま)
標高2469m
詳細(外部リンク)

本日のスケジュール

西沢渓谷駐車場[着] 07:38 - [発] 07:38
 ↓ 261分 途中まで舗装道路
雁坂峠[着] 11:59 - [発] 12:46
 ↓ 44分 
雁坂嶺[着] 13:30 - [発] 13:49
 ↓ 98分 
破風山[着] 15:27 - [発] 15:31
 ↓ 41分 
破風山(笹平)避難小屋[着] 16:12 - [発] 07:45
 ↓ 90分 巻き道利用
甲武信小屋[着] 09:15 - [発] 09:24
 ↓ 18分 
甲武信ヶ岳[着] 09:42 - [発] 09:53
 ↓ 24分 
甲武信小屋[着] 10:17 - [発] 10:24
 ↓ 22分 
木賊山[着] 10:46 - [発] 10:48
 ↓ 95分 戸渡尾根
徳ちゃん新道分岐[着] 12:23 - [発] 12:58
 ↓ 95分 徳ちゃん新道
西沢山荘[着] 14:33 - [発] 14:42
 ↓ 28分 途中から舗装道路
西沢渓谷駐車場[着] 15:10 - [発] 15:10

行動時間:13時間36分(休憩含む)

本日のおすすめ(お土産/温泉情報)

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