日常生活にハンモックを導入。
友人宅でハンモック体験をしてから、その快適さに魅了され「いずれ我が家にもハンモックを」、と思いつつ数年が過ぎた。
賃貸暮らしの為、その思いを堪えてきたが、いよいよ我慢できなくなって衝動買い。
おかげで、すっかりハンモックライフを満喫している。
こんな快適なハンモックを日常生活だけではなく山中でも活用してみたい。
思い立ったら即実行。
奥多摩へ1泊2日のハンモック山行に出掛けてみた。
自宅ではブラジリアンハンモックを使っているが、虫だらけの山中ではその快適さが半減以下になってしまう事は容易に想像がつく。
そこで今回持っていくのは『ヘネシーハンモック』。
野外利用を前提としたカヤ付き、フライシート(屋根)付きの、テントとハンモックが融合された優れモノだ。
果たしてハンモックならではの快適さを山中でも発揮できるのか、寝る事を楽しみにして奥多摩駅へと向かった。
今回は初めてのハンモック泊として、稜線上にあって手頃な樹林帯もある奥多摩小屋のテン場をチョイス。
奥多摩駅からの石尾根縦走で宿泊地を目指すスケジュールだ。
山歩きを初めて間もない頃、同じコースを歩いた事がある。正確には歩こうとした。
その時は色々と未熟だったため、登山口までの道迷いに始まり、知らずにトレイルランの記録を参考にしていたなど、予定していた山行計画総崩れで惨敗の結果に終わった。
それなりに経験を積んだ今、改めて同じコースを歩く事で、これまでの成長を確認できるいい機会にもなりそうだ。
到着した奥多摩は気温はさほどでもないが異様に湿度が高い。
早朝でもないし辛い登りとなりそうな予感が早くもする。
案の定、歩き始めて間もなく大汗をかく。
まだ登り始めたばかりで、これから地味に長い登りが続くというのに大丈夫だろうか。
「一昔前のオレとは違う!」と、自分に言い聞かせるも汗はボタボタと滴り落ちるし、自分で思っている以上に疲れが蓄積されていく。
三ノ木戸山を通過し狩倉山(不老山)山頂に達した頃にはいよいよ疲労困憊。
この先のピークを踏もうか踏むまいか葛藤しながら、「今回はハンモックがメインだし、巻いてもいいんじゃないか?」と、脳内で必要のない言い訳を始める。
どことなく漂う過去の敗北感。
石尾根上のほとんどのピークには巻き道が用意されている。これは親切心に違いないのだが、見方によっては自分自身を試す選択肢とも受け取れる。
そういう意味で、石尾根はあえて一人で来る場所なのかもしれない。(そんな楽しみ方をする必要はありません)
結局、六ツ石、鷹ノ巣、日蔭名栗、高丸と全ての山頂を経由せずに、敗北感をタップリ味わいながら巻き道を進む。
「石尾根?楽勝だったよ」
こんな事を言ってのけたかったのに・・・、くそぉ。
ヨメが5ユーロ(約650円)で買ってきたグランテトラの水筒。水筒の匂いがつかず水がウマイ!
比較的平坦な巻き道ですら休み休みとなってしまったが、明るいうちに七ツ石山山頂に到着。ここばかりは巻き道を使うと遠回りになるため、ヒィヒィ言いながら山頂まで登ってきた。
山頂からは雲取山へと続く石尾根を見渡すことができる。
まだ小ピークの陰に隠れて目視できなくても奥多摩小屋はもうすぐだ。
七ツ石山は平将門を御祭神としており、呪術により創り出した六つの分身を含めた七体が石に変わったとの伝説がある。
柄にもなくこんな歴史に思いを巡らせながら「ちょっとここでも一休み」と、腰を下ろすとブヨの大群に襲われてそそくさと退散。ブヨに急かされているような気分になって、渋々と奥多摩小屋へ向かう。
ボチボチ歩いて奥多摩小屋になんとか到着。
さて、いよいよお楽しみのヘネシーハンモック設置に取りかかる。
適度な間隔の木を見つけて数分で設置完了。
あっという間だ。
ハンモックを吊るす際は、太めのベルトを巻くので木へのダメージが少なく、周囲に手ごろな木があればペグダウンの必要もない。ローインパクトで実によくできた設計だ。
フライシートも張り、下にはグランドシートを敷いて荷物置き場にする。
設置簡単な携帯用ハンモック『ヘネシーハンモック』。
ヘネシーハンモックはカヤと一体型になっており、下から潜り込んで中に入る面白い仕組み。
では、早速失礼します。
ちょ、チョー快適!
これは寝れる、今すぐ寝れるッ!
携帯向けのコンパクトサイズなので大きめのハンモック特有のゆったりした感じは望めないにしても、山中でここまで快適空間を再現できるなんて素晴らしい。
これには疲労も回復しない訳がない。
問題は寒さ。
この時期でこそ大丈夫だろうが、宙に浮いている状態なだけに気温が下がると底冷えが半端ないハンモック。
しかし普段のハンモックライフで底冷えは経験済みなので、寒さ対策としてシュラフ、防寒着の用意は怠りない。
これで本日は良質な睡眠を約束されたも同然。
それぞれのピークを踏めなかった敗北感なんて小さなこだわりに思えてくる。
寝る事を楽しめるハンモック。
心地よくゆらり揺られて奥多摩の夜はふけていった。