山形と宮城の県境に位置する面白山は、面白山高原駅(仙山線)から気軽に行ける山。車のない私にとっては非常にありがたいこの山を歩きに行った。
こんなにアクセスしやすいのに訪れるのは初めての私。
『おもしろやま』と言う名称から、幼少の頃はアスレチック施設が充実した楽しげな場所を勝手にイメージし、中学、高校になると「名称からして絶対つまらない」と決めつけて近寄りもしなかった。
無人の面白山高原駅。至って普通です。期待しないでください。
そしてこの歳になってようやく行く事となった面白山。
ずいぶんと時間がかかったものだ。
始発の電車に乗り、無人の面白山高原駅に到着。
駅名が面白い書体で書かれてたらいいなぁ、と淡い期待を持って駅に降り立ったが、そんな訳もなく至って普通。
下車したのは私だけで、独り静かな出発となった。
メインのカモシカコースは利用せず、まずは天童高原キャンプ場に向かい、西尾根コース伝いに面白山を目指す。
北、中、南の三座ある面白山をぐるりとまわる満喫スケジュールだ。
鳥のさえずりを聞きながらの静かな山歩き。
山道脇には山ツツジが咲きほこり、気温も丁度良く、一呼吸ごとに蓄積されていたストレスが浄化されていく気すらする。
気分が晴れやかになったところで、広々と開放的な天童高原に到着。見るからにキャンプ地として最適そうな場所だ。
この天童高原からは西尾根伝いに北面白山に向かう事となる。
この辺りの林は原生林ではなくいわゆる人工林。
『これも自然のひとつの形』と言うことで気持ち良く歩かせてもらおう。
なだらかで歩きやすい山道を快調に進んでいると、前方から獣が走ってきた。カモシカか?と一瞬思ったがどう見ても犬。しかし付近に人の気配はない。
こちらに向かって全力疾走してくる犬を目前に、「え?え?え?」と狼狽え、野犬を想定して咄嗟に身構える。そんな私の前で止まると見せかけてそのまま素通りして駆け降りていった。
何だったんだ?と思って数分後、背後に息づかいを感じる。振り向くとすぐ後ろに先程の犬が。
「おおっ!」と驚くと、今度は山頂方面に駆け登っていった。
焦りはしたが、飼い主との関係が築けている利発そうな顔立ちの犬だった。あれは野犬ではないな。
とは言え、放し飼いは勘弁してほしい。
飼い主に出会ったら一言言ってやろうと思い、犬の後を追ってペースをあげる。
日帰り装備で荷物が軽い事もあって、いいペースを保てている。
順調に長命水の分岐から三沢山を越え、最初の面白である北面白山に到着した。
残念ながらガスのため景色を見る事は出来なかったが、天気がよければ眺望抜群なのは間違いない。そして面白山大権現の石碑。
面白山の山名由来はいくつかあり、面が白く見えることから『つらしろやま』→『おもしろやま』となった説や、山中にある滝の様子が面白いという何のひねりもない理由から名付けられた説もあり、そのまま面白権現なるものまで祀りあげた話もある。
山名はともかく面白権現って。
権現仲間から「おい、おもしろい事やれよ」と言われている姿が目に浮かぶ。
いっその事、ぷりぷりな書体で刻まれた石碑だったら面白かったのに。
罰当たりでバカな想像はさておき、石碑の前で静かに手を合わせる。
※ちなみに面白権現は雨乞いの神様です。
次の面白、中面白山へ向かう。
ここからは見晴らしのよい稜線歩きが出来る。
天気も回復傾向にあるし、景観への期待が膨らむ。
背の低い笹原に出ると視界が開けた。
正面には山容が特徴的な大東岳(だいとうだけ)が雲から姿を表そうとしている。
道標も何もない中面白山。意識しておかないと通り過ぎます。
「これはいいぞ」と、開けてゆく景色に惚れ惚れしていたら、危うく中面白山を通りすぎるところだった。
道標も何もないちょっとしたピーク。多分これが中面白山だろう。
何の感情も沸き起こらないまま、次の面白へと向かう。
長左衛門平へ下っていく途中、先程の犬が突然現れた。
「おお、お前さんじゃないか!」
何処に行ったか気になっていただけに、その再会にちょっと嬉しくなる。
今度は飼い主と一緒でご主人様の言うことを聞いておとなしくしている。
「利口なワンコですねー」と和んだ雰囲気になりそのまま別れを告げる。
そう言えば文句の一言も出なかったな。
まあそんなモノだ。(小心者)
アップダウンを繰り返して奥日川峠に着くと、おもむろに笹藪からオヤジ連中が現れた。
一昔前であれば山賊と間違われて当然の登場をしたのは、この時期旬の若竹を採りに来ている地元のオヤジさん達だ。
皆さん実に楽しそうで目が活き活きしている。そして若竹の食べ方にはじまり、地元ならではの情報を色々と教えてもらった。
こんな楽しそうなオヤジさん達を見ていると、先程のワンコと同様に何だか和む。(何目線?)
すっかり雲は消えて夏の空が広がっている。
日も高く空気も暑くなってきた。
しかし権現様峠からは最高に気持ちの良いブナ林歩きとなる。
比較的平坦で背の高いブナ林に入れば、強い日射しも木漏れ日となり爽やか。見上げると若々しい葉の緑が涼しげで、虫達の鳴き声も心地よいばかりだ。
南面白山への登りは結構キツイ。
そんな登りの前にリフレッシュするにはもってこいの快適空間となっている。
心地よい気分に浸ったところで、本日最後の登りに取り掛かる。
関節疲労も溜まってきた事もあり、休み休み登る。
そして最後の面白、南面白山に到着した。
夏色に晴れ渡った空に大東岳が良く映える。
二口山塊どころか、蔵王連峰最高峰の熊野岳まで続く縦走路が見渡せる。
こここそ『面白山』だ。
一般的にアクセスしやすい北面白山が代表として『面白山』と呼ばれているが、私の中ではココだな。
丁度昼時なので焼き若竹を食べる事にする。
山賊風の地元のオヤジさん達に会った後、山道から見える範囲で若竹を探しながら歩いて数本入手している。
早速食べてみよう。
まずは皮ごとバーナーで焼く。
程よく焼いたらナイフで切れ目を入れて皮を剥く。
そして食べる。
なかなか柔らかくて旨い。
個人的には醤油が欲しいかな。
まだ若くて小さいセミが飛び交い、夏本番に向けて鳴き方を練習している。そんなセミの下手な鳴き声を聞きながら、見晴らしのよい山頂で旬の焼き若竹を食べる。
やはり私の中の『面白山』はココだな。
下山はスキー場経由で駅まで下るだけとなるが、スキー場までは不安定な岩場の急斜面が続くため油断はできない。そんな急斜面にもブナ林は広がっており、爽快感を得られる山歩きが楽しめる。(でも登りは大変)
林を抜けてスキー場に合流すれば、後は淡々と下るのみ。
すっかり天気は良くなり、日陰のないスキー場では容赦なく日射しが照りつける。とは言っても梅雨前だからか、乾燥した暑さで意外と心地よい。
(ちなみにこのスキー場は9~10月になると、一面に咲き乱れるコスモスを楽しめるそうです)
若くて小さいセミが飛び交ってます。若いせいかまだ鳴くのが下手。
予定よりも早く山行スケジュールを終えて到着した面白山高原駅には、いつの間にやら登山客で賑わっていた。そして皆さん、お土産代わりなのか若竹の入った袋をぶら下げている。
山中で出会った山賊風のオヤジさん達とも再会し、満足ゆくまで若竹を食べたようでさもご満悦な様子だった。
初めての訪問にして、たっぷりと面白山を満喫できた今回の山歩き。
地元の方も楽しんでいるのだから、やはり昔から面白くてイイ山だったのだろう。