2017年12月29日
小金沢(大菩薩)連嶺:2日目
楢ノ木尾根:朝日に照らされ漂う哀愁。

登山者カウンターのカウント数はたったの2。


自然と4時前に起床。

おじいちゃん化も甚だしいこの早起きは、山登りにとっては好都合。朝食をゆったり食べて暗いうちに大峠を出発した。
(実際は外の物音にビビって起きただけ)

本日は雁ヶ腹摺山に登り、今では破線のマイナールートとなった楢ノ木尾根を下るスケジュール。この時間帯からだと、大樺ノ頭辺りで朝日を拝むことになりそうだ。

それはそうと、雁ヶ腹摺山の登山口には登山者カウンターが設置されている。登山者自身が入山するときにカウンターを押すシンプルな仕組みだ。黒岳方面の登山口にも各主要目的地ごとにカウンターが設置されており、見てみるとそれぞれ結構なカウント数になっている。そこにきて雁ヶ腹摺山のカウント数は・・・。

「2」。

いつからのカウントなのか定かではないが、とにかく「2」。たったの「2」。私を加えても「3」。これは寂し過ぎるだろう。500円札の撮影地効果はもう皆無なのか。

カチンコチンの御硯水。


【雁ヶ腹摺情報】
500円札に描かれている富士山は雁ヶ腹摺山山頂から撮影されたものが基となっています。
え?500円札なんて知らない?

話を戻して、暗闇の山道を歩く。ビビりの割に暗がりの山道を歩くのは嫌いではない。日中よりも踏み跡に対して注意を払っていることもあり、これまでの夜歩きで迷ったことは一度もない。今回も山道を見落とさず忠実にトレースしてゆく。

見晴らしの良い山道脇には、テントを張っていただろう幕営地跡が所々に見受けられる。500円札全盛期には、多くの写真好きが富士山のベストショットを狙って陣取っていたことだろう。

暗闇を歩き続けていると、背後で「とぷん・・」と音がして咄嗟に振り返る。でもザックの中の水筒の音。また歩き始め、間近で「じょり・・・」と音がして立ち止まり周囲を警戒する。でもウェアに髭が擦れただけ。こんなビビりっぷりに「やれやれ」と己を愛でながら雁ヶ腹摺山山頂に着いた。

地平線はうっすらオレンジ色に染まりつつあるが周囲はまだ暗い。記憶にある500円札の絵柄とはかけ離れた雰囲気の富士山で、暗闇の中で沈黙を保っている。こんな富士山も嫌いではない。

夜明け前の夜の500円札。


日の出を待たず、次なるピークの大樺ノ頭へ向かうと、木々の向こうに見える水平線が朝焼け色に染まってきた。大樺ノ頭に到着する頃には朝焼けの色味が増し、朝日が顔を出すのも時間の問題となっている。

大樺ノ頭から本日の目的となる楢ノ木尾根歩きは始まる。楢ノ木尾根の進行方向と日の出位置は丁度重なり、今まさに昇らんとする朝日に向かって歩く最高のシチュエーションとなった。

気分良く歩いていると視界の開けた場所に出た。水平線上には雲がかかり、日の出時刻に多少のタイムラグが出ている。雲間から光が洩れ、出そうで出ないこの状況は「明けなずむ」とでも言うのだろうか。と思っていたら御来光。

ああ、山中で見る朝日ってイイな。毎回イイな。

まだ下山せず山中に身を置いておきたい欲に駆られることは良くあるが、本日はこれまで出会った人、物、景色全てに愛おしさを感じてしまい無性に下山したい心情だ。年末特有の哀感だろうか。それとも歳か。

今日も静かに陽が昇ります。


朝日に照らされ心洗われたところで、楢ノ木尾根歩きを続行。

楢ノ木尾根は、荒々しい露岩の細尾根が続くかと思いきや、唐突に広くなだらかな平地に出たり、古道の雰囲気を感じさせる一方で、鉄塔をくぐる近代的な箇所があったりと変化に富んでいて面白い。更に歴史的背景や名称由来(昔話)なども知っていれば、より楽しめること間違いナシ。

例えばこんな話がある。

楢ノ木尾根の起点となる大峰山には、雨乞いの逆で快晴祈願を叶えてくれる大峰権現様が祀られ、里人から大事にされていた。そんな大峰山の隣に泣坂ノ頭と呼ばれるピークがある。

小金沢エンマ谷に住む閻魔様が大峰山へ参拝に行く途中、泣坂ノ頭でへばってしまい、お供の鬼に背負わせた。閻魔様を背負った鬼はそのあまりの重さに泣きながら坂を登った、と言うのが『泣坂ノ頭』と呼ばれる所以となっている。更に、閻魔様を下す際には鬼の腰骨が折れてしまったことから『コシボネ』の別称もある。何にしても鬼にとっては散々な目にあった話で、地獄はやっぱりブラック企業的な昔話だ。

ここで落涙したのかぁ。鬼、頑張ったなぁ。そりゃあ赤くも青くもなる訳だぁ。それにしても、ダメな上司を持つと大変だぁ。ちゃんと労災おりたかなぁ。

こんな具合に由来ひとつで単なるピークにも興味がわくというものだ。

古道感のある楢ノ木尾根。


ワイヤー設置の荒々しい場所もあり。


泣く泣く坂を登った鬼に思いを馳せながら。

楢ノ木尾根を満喫しつつ大峰山までやってきた。大峰権現様を祀る祠に参拝して恐らく最後となるだろう休憩をとる。

大峰権現様を祀る祠


ここから南陵を下るのが通常ルートなのだが、地形図を見る限り北陵を下ればピンポイントで駐車している小金沢公園に辿り着く。等高線を見ても下りられなくはない傾斜で、通常ルートに比べると2時間は短縮できそうだ。

が、この尾根は全くおすすめ出来ません!

尾根上は木々が伐採されている防火帯。樹林帯なら木々伝いに下りられても、砂利剥き出しの急峻な防火帯では全く話が違ってくる。防火帯のへり伝いに下山したとは言え、おすすめは全く出来ない尾根だ。

最後こそ時間短縮の欲に飲まれてしまったが、今朝の御来光のように我を忘れる景色に出会えるのが登山の醍醐味。世を儚むようなことばかり言いたくなる現代社会において、一瞬でも「世界って美しい!」と思えるのは貴重だ。

大菩薩マイナールート歩きをテーマとした今回の山行では、疲労困憊になっても、寒い思いをしても、鼻水が風でそよいでも、山歩きならではの喜びを純粋に感じられた。これって単純に嬉しいことだ。「長峰(ながね)、長いね」などとオヤジギャグを言ってしまう歳になっても、まだまだ捨てたモノじゃあない。

そんなことで2017年の山行は、恐らくこれにて終了。
それでは皆さん良いお年を。

漫画的山行記録

大峠にて4時前に起床。

特に早出する予定はなかったのですが、折角なので出発。

本日は大菩薩マイナールートその2。楢ノ木尾根を歩きます。

まずは雁ヶ腹摺山に登ります。

登山口にはカウンターが設置されています。

え、2人だけ・・・いつからのカウントだろう?

登山口から入ってすぐに麓水「御硯水」があります。

現在はこんな具合。

土が流れて結構危うい山道が続きます。

お化け屋敷なら嫌な予感しかしない状況。

暗闇の山頂に到着。

夜明けはまだ先です。

500円札の撮影地ではもう集客できなそう・・・。

日の出を待たず、先へ進みます。

水平線が朝焼け色に染まるいい時間。

大樺ノ頭に到着。

日の出の方角に向かって楢ノ木尾根歩きスタート。

丁度開けた箇所から御来光を待ちます。

おはようございます。

周囲の全てが朝焼けに染まります。

富士山もほんのり朝焼け色。

露岩の細尾根なのに唐突に現れる鉄塔。

また細尾根の道に。

楢ノ木尾根は荒々しさもある変化に富んだ尾根です。

ここはクサリの代わりにワイヤーが設置されています。

高低差が分かりずらいですが、クサリ場ならぬワイヤー場です。

鬼も泣いたという泣坂ノ頭を経て大峰山へ。

楢ノ木尾根の終点、大峰山山頂に到着。

大峰の権現様が祀られた祠がポツリ。

一服。恐らく本日最後の休憩になるでしょう。

ここから一般ルートを外して北稜を下ってみます。

下るべき尾根の方角をチェックしていざ下山。

下りに選んだ尾根は防火帯となっていました。

落ち葉ラッセル。

写真では分かり辛いですが、かなり急峻な防火帯が続きます。正直このルートはおすすめ出来ません!

この岩場を越えても急峻な防火帯は続きます。

防火帯を下ってピンポイントで駐車場に到着。

ただ何度も言いますが、このルートは上り下り共におすすめ出来ません!

帰りに多摩源流温泉『小菅の湯』でひとっ風呂。

珍しくこんなモノを飲みたくなりました。

案の定、ファンタグレープの味・・・。

2017年の山行はこれにて終了。

来年はどんな山歩きができるかな。

おわり

漫画的山行記録
(新規ウィンドウ表示)

本日の山行情報

単独行/2日目/テント泊/縦走/マイカー登山

雁ヶ腹摺山(がんがはらすりやま)
標高1874m
詳細(外部リンク)
大樺ノ頭(おおかんばのあたま)
標高1777m
大峰山(おおみねさん)
標高1420.7m

本日のスケジュール

大峠[着] 05:09 - [発] 05:09
 ↓ 53分 
雁ヶ腹摺山[着] 06:02 - [発] 06:08
 ↓ 31分 
大樺ノ頭[着] 06:39 - [発] 06:44
 ↓ 132分 楢ノ木尾根
大峰[着] 08:56 - [発] 09:07
 ↓ 72分 急峻な防火帯
小金沢公園駐車場[着] 10:20 - [発] 10:20

行動時間:4時間49分(休憩含む)

本日のおすすめ(お土産/温泉情報)

この山域の関連記事