昨日はゆっくりと寝れた。
寒かったが霜も降りず、乾燥しているのか結露も全く無し。これならテント撤収も楽々だ。朝食もしっかりと摂り、唐松尾根伝いに大菩薩嶺を目指して出発した。
上日川峠のテン場から30分程歩けば、第二のテン場がある福ちゃん荘に辿り着く。
この福ちゃん荘は岩風呂にも入れるらしく売店も充実。どういう訳かブランコも設置されている快適そうな宿泊地だ。
甲州名物の馬刺しを食べてみたかったが、まだ歩き始めたばかり。
ここは垂れそうなヨダレをグッと堪えて先を急ぐ。
不自然に散らばる浮き石に注意しながら唐松尾根を登り始めると、いよいよ富士山が見えてきた。
大菩薩湖(上日川ダム)越しに見る富士山は、やはり見事としか言いようがない。
友人Kはこの景色を見ずに稜線に出てから拝んでやろうと目論んでいたが、うっかり視界に入ってしまい悔んでいる。
そしてバシバシと写真撮影している。
富士山には写真に収めたくなる魅力がタップリだ。
その山容からか、付近に高い山がなく目立つからか、日本の象徴的な山だからか。とにかく、これほどまでに見るだけで感激できる山はそうそうないだろう。
時折、振り返って富士山を見ながら、稜線上の『雷岩』に到着。
『雷岩』には人だかりができている。
それもそのはず、富士山を拝むには絶好のナイススポットで、富士山だけではなく、南アルプスの残雪で白い稜線も見渡せる。個人的にはもっと接近したいところだが、この絶妙な距離感が大菩薩嶺ならではとも言える。
景色にウットリするのもそこそこに、まずは大菩薩嶺に行かねば。
『樹林帯なので眺望ナシ』と断言されている大菩薩嶺は日本百名山のひとつ。
眺望ナシでも名山の雰囲気が溢れだしているに違いない。
雷岩から10分程歩いて大菩薩嶺山頂に到着。
眺望ナシ。この一言に尽きる。
山頂云々より山域全体で『イイ山』、と判断しての百名山入りなのだろう。きっと。
帰宅後、深田久弥氏の『日本百名山』を改めて読み返すと、やはり山頂より峠の事がメインに書かれており、大菩薩嶺の『れい(嶺)』も『とうげ』と呼ばれていたそうだ。
眺望ナシの大菩薩嶺(だいぼさつれい)。山名の響きは抜群。
雷岩まで戻り、改めて大菩薩連嶺の稜線歩きスタート。
天気もイイし、見張らしもイイ。
似たような写真ばかりになりそうだが、それでも写真に収めたくなる景色が続いている。
いくつかの小ピークを越え、爽快な気分のまま大菩薩峠に到着。
さすが人気スポットだけあって売店も充実している。
先程食べ損ねた馬刺しの代わりと言っては何だが、味噌おでん(400円)を注文。
いわゆる『おでん』ではなく、串に刺されて味噌が塗られたカロリーゼロのこんにゃくだけが出てきた。
こんにゃく好きなので、これはこれで美味そう。しかもデカくて食べ応えがありそうだ。もっともカロリーはゼロだが。
売店のおばちゃんに地名の読み方など地元情報を伺い、観光感覚で大菩薩峠を満喫したところで改めて再出発。
【微妙に読み方が不安な名称】
大菩薩嶺(だいぼさつれい):「嶺(りょう)」って読みたくなる。
裂石(さけいし):大菩薩嶺登山口バス停のある地域名。「れつごく」とか荒々しく読みたくなる。
上日川(かみひかわ/かみにっかわ):川名。「三日血川(みっかちがわ)」が由来とか。
雁ヶ腹摺山(がんがはらすりやま):雁が腹をするように飛んでゆく山だそうだ。つまりどういう意味?
ここから先は、急に登山客も少なくなり静かな縦走が期待できる。
鞍部(稜線上のくぼんだ箇所)ごとにある笹原の景色も見逃せないポイントのひとつだ。
まずは熊沢山を経て石丸峠へ。
登り始めるとすぐに樹林帯で見晴らしはない。
そんな熊沢山のピークを越えるとパッと視界が開け、眼下に青みがかり始めた黄金色の笹原が広がる。
ピクニックや昼寝にはもってこいのロケーション。実際に昼食休憩をとっている登山客の姿もあり、見るからに気持ちよさそうだ。
この季節ではまだ虫に悩まされる事もなく快適そのものだろう。
岩場の平らな所でオヤジが昼寝しています。幸せ者め。
ちょっとしたピークを越え、またもや『狼平』と呼ばれる笹原へ。
ここも見るからに快適そう。
笹原の中央には1本の大木が根付いており、その木陰に寝転べば、上質な睡眠を得られる事間違いなしだ。
だが、本日の天気は下り坂。
奥多摩方面から雲が押し寄せてきており、どうやらひと雨降りそうな気配が漂ってきた。
先を急いで小金沢山へ。
周囲に『大菩薩嶺』や『雁ヶ腹摺山』など物々しい山名がある中、『小金沢山』とは何とも弱々しい。
そんな小金沢山山頂は大猿が大暴れしたかのように倒木だらけで、弱々しさの中にどことなく哀愁が漂っていた。
周囲はいつの間にかすっかりガスに覆われ、ひと雨くるのはもう時間の問題。
そう思ってレインウェアを着用、ザックカバーも装着すると間もなく降り出した。
雨ではなくアラレだ。
見る見るうちに山道が白くなる程に降り出し、快適さなど微塵もない状況となってしまった。
アラレに打たれながら川胡桃沢ノ頭を越え、黒岳へと辿り着く。
本日の行程ではもう主だったピークは無く、今晩の宿泊地である湯ノ沢峠の避難小屋へ向かうのみ。
しかし、黒岳を下り始めてすぐの白谷ノ丸(山名です)からの山道は、今思い出しても腹立たしい悪路だった。
とにかく泥で滑る。
先程まで降っていたアラレで表面が濡れている事もあり、とにかく滑る。
細心の注意を払っても滑る。
山道はチューブスライダーのようにえぐれており、もう下まで滑って行けそうなくらいに泥でヌルヌル状態。
先行していた登山者の滑っただろう痕跡もありありと残されており、こちらもいつ滑ってもおかしくない状態でハラハラしながら下ってゆく。
が、案の定、滑って泥だらけに。
幸い泥だらけになったのは手袋とザックカバーのみで済んだが、何故だろう、この腹立たしい気持ちは。
わかっていてもやらかしてしまう、この感じが実に腹立たしい。
そして一人が滑ると、気が緩むのかもう一人も滑ってしまう不思議な感染力。あー、腹立たしい。
この緊張と憤慨の連続で通常よりも長く感じる下りを終え、湯ノ沢峠に到着した。
以前、山中で出会った方に「湯ノ沢峠の避難小屋は快適だよ」と聞いている。
泥の山道で疲弊した気持ちを休ませるには最適、と期待して避難小屋へ向かうと大賑わいの満員状態となっていた。子ども連れの方もいたからか、避難小屋と言うよりもちょっとした別荘のような感じになっている。(※避難小屋まで車で来れます)
とても避難小屋で泊れる様子ではなく、同じ縦走者だろう登山者たちは駐車場にテントを張っていた。
こちらも駐車場にテントを設営して近くの水場で泥を洗い流して気分一新。何だかんだ言っても泥だらけは嫌な現代っ子なのだ。(※水場は林道沿いで徒歩4分程の所にあります)
本日の前半は天気も良く山道も快適だったからか、後半の歩きには気が滅入ってしまった。明日の帰路で高速道路渋滞の事も考えると余計に滅入ってしまう。
そこで、富士山や笹原歩きも満喫した事だし縦走はここまでにして、明日は渋滞に巻き込まれないように早々と下山する事に決定。
そうと決まればメシを食ってくつろぐのみだ。
そういえば漬物はどんな具合だろうか。
実は狼平で休憩中にキュウリの浅漬けを仕込んでいたのだ。
ジップロックにキュウリ、塩、フリーズドライの梅干を入れて軽く揉む。そしてザックの一番下に置いて、通常通りにパッキング。宿泊地に着く頃には荷物の重みでいい具合に漬かっていると言う寸法だ。
さっそく食べてみる。
おおっ!ちゃんと漬かっていて思いのほか旨いぞ。塩漬けなので保存も効くし夏場もいけそうだ。
これは『背負い漬け』と名付けて定番にしよう。