2017年6月24日
小金沢(大菩薩)連嶺:1日目
牛ノ寝通り:大マテイで大惑い。

石丸峠の西側。


大菩薩嶺の西側に住んでいる私は、主稜線を超えた東側をあまり歩けていない。いかにもヒッソリとした静けさの長峰や楢ノ木尾根などは是非歩いてみたい。

そう思いつつ歩けていないのは、尾根を越えてもまた戻ってこなければならず、東側に下ったとしても帰りの交通手段があまりないのが原因だ。まあ、単にものぐさなだけかもしれない。

しかし、いよいよ歩きたくなってきた。黙々淡々と長い時間をかけて歩きたくなってきた。

そこで、今回の山行スケジュールはこうだ。

上日川峠まで車で入り、石丸峠を越えて牛ノ寝通りを下って小菅、丹波山へと抜ける。そして、麓のキャンプ場でテント泊。翌日は丹波山大菩薩道経由で大菩薩峠を越えて上日川峠まで戻ってくる、両日8~9時間程のテント泊装備の山行だ。そんな物好きスケジュールにも関わらず、希望によりヨメも同行することとなった。

ペース配分に気を付けて出発だ。



ひっそりと旅人を見守っています。


まだ静けさ漂う上日川峠に駐車して、まずは石丸峠へ向かう。と、その前に、旅の安全を祈願して馬頭観音様に手をあわせる。

この馬頭観音像は分岐点の草むらにおもむろに安置されているため、足を止める人はほとんどいない。その傍らには「右小すげ、左丹波山」と彫られている石道標もある。ただ、これらは風化が進んで、今となってはただの石の塊にしかみえない。それでもものの本によると、宝暦五丁丑年(1757年)からある代物で、大菩薩峠を越える甲州裏街道(旧青梅街道)が盛んだった時代から現在に至るまで、旅人の安全を見守っていることになる。

これはありがたい。手を合わせて、行って参ります。

ヨメは長丁場を想定してか、かなりゆっくりペース。呼吸も乱さず、鳥のさえずりが取り囲む静かな早朝森林浴気分に浸っているようだ。

そんなゆっくりペースでも着実に進み、難なく小菅大菩薩峠とも呼ばれていた石丸峠に到着。ここからが初めて歩く牛ノ寝通りとなる。

ワクワクしながら石丸峠から下り始めると、植生が変わり雰囲気も変わった。

虫の鳴き声や空気感はすっかり夏の様相なのだが、周囲の緑は芽吹いたばかりのように鮮やかで明るい。日当たりの良い尾根道だから余計に明るい印象を受ける。そして、不思議と子供時代を思い起こさせる懐かしさが漂っていた。

「ばーちゃん!パインサイダーある?」

ゴクリ。

「不味い!」(でも飲む)

何気に蘇る子供の頃の記憶。なんだろう、この懐かしさ。ここ、好きだ。

牛ノ寝通りへの分岐。


下り始めると雰囲気が変わります。


日当たり良好な明るい山道です。

山道から少し外れて玉蝶山道標。


持参の地図には、牛ノ寝通りの途中に玉蝶山という名の山が記載されている。山道はピークを経由していないが、「この辺りかな」と目星を付けて山道から外れてみると、思いのほか立派な山頂道標が立っていた。

この先の大マテイ山までにも、榧ノ尾山、狩場山、牛ノ寝山と名のついたピークが記されており、これらにも立派な山頂道標が設置されていそうな気がする。これは見逃さないよう、注意して歩くことにしよう。

キョロキョロと周囲を見渡しながらゆっくり歩いているのだが、本日のヨメは調子が出ないようで歩みが遅く、すぐ距離が開いてしまう。ヨメの所在を確認してから数分後に振り返るとやはりヨメの姿はなかった。

立ち止まって待つこと数分。

一向にヨメは現れない。様子を見に登り返すも全く気配がない。そんなはずはないのだが、追い越して先に行っている可能性も想定して、早足で先へと進んでみる。

山道沿いに榧ノ尾山道標。


しばらく進むと山道脇に榧ノ尾山の道標があった。しかし、ヨメの姿はない。本日のヨメの調子からして、それ程先にはいけないはず。

どう言うことだ?

休憩地に忘れ物でもして戻ったか?
玉蝶山の道標と同じように山道から外れて各ピークの道標を探しているのか?
この区間の尾根はさほど広くないし、両側は急斜面・・・まさか・・・。

不吉な想像が脳裏を過ぎる。

ヨメの名を呼びながら最後に休憩した地点まで登り返す。

いない・・・焦る。

あ、そうだ。携帯電話。

携帯の電波がつながるところを探して、連絡してみると一瞬つながって、すぐに途絶えてしまった。それでも電話に出られる状態であることは確認できた。あとはどの辺りにいるかだ。

そうこうしていると、登ってくる登山者と下ってくる登山者が同時にやってきた。人通りの少ないこの場所では運が良いとしか言いようがない。すかさずヨメを見かけたか訪ねようとすると、伝言を預かってきたようで「女性がこの先で待っていますよ」と教えてくれた。

ああ、良かった。

いつ追い越したのかはほとほと謎だが、無事に先行していたことを確認できて一安心。それにしても、忍びの如き身のこなしで私の背後に張り付き、振り返ると同時に抜き去るような奇行をしない限り、私を追い越すことは出来ない状況のはずだったが・・・。

何はともあれ、伝言を預かってくれた登山者に礼を告げ、急ぎ足で向かうと、ずっと先の大マテイ山手前の分岐点でヨメは待っていた。

惑わされずに大マテイ山へ。


大マテイ山の『マテイ』は『惑う』が転訛したと言われている。その昔、里人がこの付近でよく惑わされた(間違った)のが由来だそうだ。しかも、ただ惑わされたのではなく、『大マテイ』なだけに大惑いしたのだろう。

奇しくもこんな由来の大マテイ山へ至るまでに、大いに惑わされるとは・・・いやあ、マテった、マテった。

その後、ヨメの前は歩かず真後ろで監視しながら、惑わされることなく大マテイ山山頂を踏んだ。

【マテらないために】
現在は道標整備が進んでいるので、山道に関しては見落とさない限り惑わない、はず。それでも地図を持参して歩くコースは把握しておきましょう。

ここからはモロクボ平を経由して小菅(川久保)へと下る。山道を下り終えて一旦車道に出ると、緊張感が途切れたのかドッと疲れが込み上げてきた。肉体的な疲れというよりも、精神的疲労の方が大きいかもしれない。

大丹波峠から丹波山への下り。


ただ、ここから再度、林道/山道に入り、大丹波峠を越えて丹波山へ抜ける予定のため、くつろぎモードとなるにはまだ気が早い。

「ようし、張り切って大丹波峠へ!」と、意気込んではみたものの、同行のヨメは完全にスイッチオフになった様子で、動くが無言だ。

「この大丹波峠は本来、大田和峠と記載するのが正しいそうだよ」

こんな豆知識を披露してもナシのつぶて。

ところが、丹波山へ抜ける最後の下りに入った途端、体力が全回復したかのようなスピードで突き進んで行くヨメ。確かに歩きやすい山道ではあるが(※沢沿いで崩れかけた箇所もあるので注意)、どこにそんな体力を温存していたのだろうか。ヨメに限らず女性全般に時折感じることだが、気分次第で体力を制御できる能力を備えているのだろうなぁ。

無事に小菅大菩薩峠(石丸峠)を越え、牛ノ寝通り伝いに小菅へ抜け、大丹波峠を越え、丹波山までやってきた。

貸切状態だった奥秋テント村。


予定していた麓のキャンプ地が臨時休業だったため、少々離れたキャンプ地に移動するトラブルはあったものの、大マテイ山手前で起こった『はぐれヨメ事件』の焦りに比べれば微々たる出来事だ。『ヨメ、謎の体力全回復』の驚愕にも劣る出来事だ。

そんなヨメ関連の感想は置いといて、牛ノ寝通りはその名に相応しく、どっしりとして、のんびりと長く、そしてどこか懐かしさを感じさせてくれる山道だった。

最後に、テン場として利用した『奥秋テント村』は快適そのもの。

家族や友人達と快適なアウトドアライフを楽しむべき麓のキャンプ場で、山岳用テントを張ると否応もなく劣等感を感じてしまうのだが、天気が悪く梅雨時期もあってこの日は貸切状態。広々としたキャンプ地で劣等感を抱くこと無く大爆睡できた。

【本日の学び】
山行同行者に常人には思いも付かないアクロバティックな行動をする方がいる場合は、背後から常に監視しておきましょう。

漫画的山行記録

大菩薩連嶺の東側山道を歩いてきます。

本日歩くコースは石丸峠から延びる牛ノ寝通りです。

まだ登山者のいない上日川峠から出発です。

ソールを張り替えたばかりのゴロー『エスハチ』。足元は頼んだぞッ!

出発前に旅の安全を祈願して馬頭観音に手を合わせます。

ものの本によればによれば江戸時代よりある古仏だそうです。

では石丸峠に向けて出発。

途中には3代目とされる石マラ様。

石丸峠は元々石マラ峠と呼ばれ、子宝祈願として石マラ様が祀られていたそうです。(※現在はありません)

では失礼して、亀頭にタッチ。

沢を渡って行きます。

色鮮やかなクリンソウ。こう見えても毒草。

林道を横断して黙々と登ります。

朝日とご対面。

大菩薩の主稜線が見えてきました。

手前に小金沢山。奥には雁ヶ腹摺山。

朝露でクモの巣もこの通り。

小菅大菩薩峠とも呼ばれていた石丸峠までやってきました。

朝食タイムッ!

さて、ここから牛ノ寝通りです。

下り始めると植生が異なるのか、雰囲気がガラリと変わります。

芽吹いたばかりのような色合いで明るい景色が広がっています。

こちらも初々しい色合いのサラサドウダン。

山道から少し外れると思いのほか立派な玉蝶山の山頂道標。

ギンリョウソウがポツリ。

山道沿いに榧ノ尾山。

山道から外れて狩場山。

石仏ポイントを通過。

と、一見順調な足取りのようですが、この区間で同行のヨメとはぐれて右往左往しています。

奇しくも、この先には『惑う』が転訛したと言われる大マテイ山があります。

その昔、里人がよく惑わされた(道を間違った)のが大マテイ山の由来だそうです。

皆さまにおかれましてはマテりませんように。

で、大マテイ山です。

さて、後はモロクボ平経由で小菅の町へ下ります。

その前に高指山山頂。特に何も見当たらず。

モロクボ平を通過。

牛ノ寝通りにピッタリのたおやかさです。

麓に近付くと山葵棚が見えてきます。

牛ノ寝通りを下り終えました。

本日の行程はまだ終わりではありません。

ここから大丹波峠を越えて丹波山へと抜けます。

車道歩きはつまらないので山道入り。

林道を通って大丹波峠までやってきました。

後は丹波山へと下るのみ。

下り終えました。ここは丹波山です。

頭上には違和感ある天守閣・・・。

この天守閣、実は3日間だけ日本一だったローラー滑り台のスタート地点となっています。

多摩川の上流となる丹波川。そしてやはり異質な天守閣。

無事な下山後はやっぱり温泉でしょう。

本日の宿泊地となる奥秋テント村に到着。

貸切状態だったので伸び伸びと利用させてもらいました。

本日は朝も早かったし、よく歩いて足も疲れた。

では、お休みな・・・。(寝落ち)

おわり

漫画的山行記録
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本日の山行情報

複数人山行/1日目/テント泊/8時間以上歩行/マイカー登山

玉蝶山(たまちょうやま)
標高1730m
榧ノ尾山(かやのおやま)
標高1429m
狩場山(かりばやま)
標高1376m
大マテイ山(おおまていやま)
標高1409m

本日のスケジュール

上日川峠[着] 04:45 - [発] 04:45
 ↓ 114分 
石丸峠[着] 06:39 - [発] 07:05
 ↓ 37分 
玉蝶山[着] 07:43 - [発] 07:43
 ↓ 168分 ヨメとはぐれて右往左往中
狩場山[着] 10:31 - [発] 10:31
 ↓ 33分 
大マテイ山[着] 11:04 - [発] 11:11
 ↓ 46分 
高指山[着] 11:57 - [発] 11:57
 ↓ 101分 
登山道入口(川久保)[着] 13:39 - [発] 13:39
 ↓ 34分 舗装道路
山道入口[着] 14:14 - [発] 14:25
 ↓ 24分 山道/林道
大丹波峠[着] 14:49 - [発] 15:06
 ↓ 23分 
山道入口(押垣外)[着] 15:29 - [発] 15:29
 ↓ 32分 舗装道路
道の駅たばやま[着] 16:02 - [発] 18:12
 ↓ 18分 舗装道路
奥秋テント村[着] 18:30 - [発] 18:30

行動時間:10時間34分(休憩含む)

本日のおすすめ(お土産/温泉情報)

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