ヨメの知り合いのご家族と一緒に大菩薩嶺を周回する。
今回訪れるのはK夫妻と小学2年生の息子N君の3人で大菩薩嶺は初めてとのこと。そして、丸川荘での宿泊も含め、ヨメ、私と一緒に登りたいとのご希望を頂いた。
断る理由などありません。
地元民として大菩薩嶺山行のお供をいたしましょう。
大菩薩嶺の主となる山道は比較的安全なので、初心者や親子登山には持って来いのエリアとなる。稜線上にある雷岩からは富士山、南アルプスの山々を望める爽快な景色が用意され、丸川峠までは森閑とした雰囲気の樹林帯歩きを楽しめる。初めての来訪ともなれば、きっと喜んでもらえるに違いない。
ただ、私としては今回同行するKご家族と面識が無く、山歩きに関する力量が分からないのは気になるところ。しかし、塩山駅へ向かいにゆき、やってきたKさんたちの姿を見て、その不安は軽く吹き飛んだ。
Kさんの使い込まれたザックには数々の山を歩いただろう歴史を感じさせ、今晩の食料がたっぷり入っているのかズシリと重い。聞くと学生の頃はワンダーフォーゲル部で現在はマラソンランナー。山スキーもたしなみ、自然と触れ合うのが大好きなアウトドア一家だった。
こりゃあ、自分の方が心配だぞ。
何はともあれ、お供する身としては安全第一で出発だ。
まだ林道が冬季閉鎖中の本日は、丸川峠分岐駐車場から歩き始めて上日川峠~雷岩~丸川荘で宿泊。翌日、丸川峠分岐駐車場へと下山するスケジュールとした。
K夫妻の息子さんN君は小学2年生。その年齢を考えると、丸川峠分岐駐車場から丸川荘まで登り、空身で雷岩を往復した方が良いかとも思ったが、K夫妻には息子に対して独自の考えがあったようだ。
出発時は「早くアイゼンを付けたい!」と大張りきりのN君だったが、アイゼンが必要な状態ではなく、地面の露出箇所も多い。アイゼン装着はお預けとなって、がっかりした様子のN君。上日川峠付近では疲労が蓄積されてきたのか愚図りはじめて、雷岩直下でいよいよご機嫌ななめになってきた。
しかし、K夫妻は軽く励ます程度で、極力手助けをせずに寄り添うのみに留めている。
そんな様子を見て内心ハラハラしている私は、「N君の荷物を持ちましょうか?」と口にしたくなる。とは言え、自分のことは自分で乗り越えてほしいK夫妻の無言の想いもひしひしと感じられる。「駄々をこねているだけで体力的には大丈夫」と、息子を信じている両親だからこそできる判断だ。
実際、愚図りながらも主稜線に出ると、突然体力が全回復したかのように、「この岩場を登る!」とクライマーの如き勇ましさで雷岩を登りきってしまった。
そのみなぎる体力、一体何処に隠していたんだ・・・。
子育て経験ゼロの私にとっては、まだまだ理解できそうにない世界だ。
大菩薩嶺山頂から丸川峠の山道は、積雪により地面の露出が無く、凍結箇所も多く滑りやすいためアイゼンを装着する。アイゼン装着を待ち望んでいたN君のテンションは急上昇だ。もはや、愚図っていた時の疲労の色は見えない。
さすがに後半こそ疲労した(飽きた?)ようだったが、小さな一歩でも着実に進み、本日の宿泊地となる丸川荘に到着した。
「ううう・・・、頑張ったなぁ!N君!!」
人の子とは言え、その頑張りにちょっと感傷的になってしまう私。歳のせいかな。
到着後は暖かな薪ストーブを囲んで、荷上げられた食材による豪華な晩餐を楽しむ。そして、満天に瞬く星空を眺めて、1日目の行程は無事に終了した。
【2日目】6時過ぎに起床。
昨日は霞んで見えなかった富士山がうっすらと朝焼けに染まっている。丸川峠ではすっかりお馴染みとなった子ギツネ『なでしこ(姉?)』と『銀吉(弟?)』もやってきて、初対面となるKさん一家もご満悦の様子だ。
本日は下山するだけ。
ただ、その前にN君には山小屋の朝の仕事『薪ストーブの火入れ』が任されている。
アウトドア好きで火起こしの経験があったのか、「任せとけ!」と自信たっぷりな様子に反することなく仕事をこなすN君。朝ごはんそっちのけで火の番をしているその表情は実に誇らしげだ。
「子供ってねぇ、火を見ていると安心するものなんですよ」
しみじみと炎を見つめながら語ってくれたN君(8歳)の姿に、早くも悟りの境地を見た気がする。
無事に大菩薩嶺を登り終えたK一家は去ってゆきました。
丸川荘を後にして、無事に丸川峠分岐駐車場へと下山。私は気がつかなかったが、昨日、大菩薩峠からの稜線上で転倒骨折した登山者がヘリで搬送されていたようだ。
大菩薩嶺は比較的安全なエリアとは言え、山である以上決して油断は出来ない。そんな中、全員無事に下山できたのは、お供の立場としては嬉しい限りだ。
山では登るも下るも自分の足で歩かなければならない。救助されるような状況となる可能性も当然あり、常にリスクと隣り合わせだ。ただ、自分の行動が結果に直結する状況だからこそ得られる経験も大きいと感じている。
自分の力で大菩薩嶺を登り、無事に下山したN君は勿論のこと、息子を信じて寄り添うK夫妻の姿に、親子登山の真髄を見たような山行となった。