ヨメと南アルプスの鳳凰三山に出かけた。
天気予報を見る限り、またとない山歩き日和。
こんなチャンスを見過ごす手はない。
御座石鉱泉の市営駐車場(無料)に車を止め、燕頭山を経て鳳凰小屋へ。
テントを設営して軽装で地蔵岳~観音岳~薬師岳へとピストン縦走するスケジュールだ。
「土日で好天とあっては駐車場も混み合っているだろうか」と心配したものの、意外に少なく2台しか止まっていなかった。
人懐こい御座石鉱泉のワンコと戯れ合い、登山届を出して山歩きスタート。
登り始めから斜度はキツめ。
燕頭山までは急坂が続くものの、守られたペースで息を切らすことなく淡々と登って行く。
以前はエリアマップなどに書かれているコースタイムを必要以上に意識して闘争心を燃やしていたが、最近では参考程度に留めて自分のペースで登れるようになった(たまに)。
これまでの山歩きで少なからず学んでいるのだ。
燕頭山を過ぎ、日当たりの悪い山道に入ると積雪が出てきたためアイゼンを装着する。
日当たりが悪くガリガリの雪道はアイゼンがよく利いて快適。
アイゼンワークとしては全くもって未熟そのものだが、アイゼンを装着して歩くことにはだいぶ慣れてきた感じだ。
淡々と登り、思いのほかあっさりと鳳凰小屋に到着。
実際に歩いた時間は一般的なコースタイムより掛かっているのだが、呼吸を乱すこともなかったためか気持ち的には「あっさり」な感じだ。
水場もトイレも綺麗な鳳凰小屋のテン場には先客2張りしかなく、「今日は本当に土曜日だっただろうか?」と疑いたくなるほど静か。
これはイビキなどに悩まされず静かな山時間を過ごせそうな予感だ。
雪上にテント設営、温かな寝床を用意した後に軽装で地蔵岳へと出発。
急坂でも相変わらずのペースで登って行くと、森林限界を越えたのか周囲の眺望が開け、広い雪面に出た。
見上げるとガスの中、地蔵岳オベリスク(地蔵仏)がうっすらと見える。
オベリスクに近づく程に傾斜はどんどんキツくなり、時折見せる青空に一喜一憂しながら淡々と登る。
今時期の雪質ならアイゼンがあれば十分登れるとしても、滑落時のことを考えるとピッケルもあった方が安心だろう。
地蔵岳オベリスクに到着する頃には、ガスが見る見るうちに晴れて観音岳へと続く稜線も姿を現した。
テンションも見る見るうちに上がっていく。
北岳方面はまだガスがかかり姿を拝むことができない。
それでもオベリスクの存在感は鳳凰三山の象徴だけあってタメ息ものだ。
地蔵岳オベリスク周辺にはお地蔵さんが多数安置されています。
このオベリスクのてっぺんが地蔵岳山頂となるらしいが、最後はクライミングの技術がないととても登れそうにない。
無理せず登れるところまで登るのが吉だ。
地蔵岳山頂付近には多数のお地蔵様を見ることができる。
鳳凰小屋の小屋番さん情報によると、地蔵岳のお地蔵様は子授け地蔵と崇められ、1体を背負って下山し、枕元に置いて子宝を祈願するという慣わしがある。
そして、子を授かったらお礼太鼓をドンドコと鳴らしながらドンドコ沢(だから「ドンドコ沢」)を登り、2体の地蔵を返すということだ。
こんな小屋番さんのプチ情報のおかげで、祀られているお地蔵様が何だか愛おしく感じてしまう。
そして、ヨメは連れて帰るお地蔵様を物色している。(本気か?!)
お地蔵様を連れて帰るのはまたの機会にして観音岳へと続く稜線歩きを楽しむ。
時間的にこれから観音岳までに行くと暗くなりそうなので、観音岳、薬師岳は明日早朝に登るスケジュールに変更。
来た道を戻ってもよかったのだが、未知の山道を歩いてみたい欲求には勝てず、賽ノ河原を越えて観音岳取り付きにある鳳凰小屋分岐点からの近道を利用して戻ることにした。
地蔵群が安置されている賽ノ河原ではカラスがうろつき、うっすらとガスがかかった雰囲気は、まさにあの世とこの世の境目を感じさせる。
お地蔵様に少々手を合わせてから白砂と巨石の岩稜を進む。
賽ノ河原から赤抜沢ノ頭まで登ると、これまでガスがかかって姿を見せなかった北岳がクッキリと視界に飛び込んできた。
もうテンション爆発。
勇壮な北岳の姿は勿論のこと、小説等にもよく登場する北岳バットレス(北岳東側の600mもの岸壁)も一望。
夕暮れ間近の柔らかい日の光で、雄大に広がる尾根と谷の陰影が明瞭に浮かび上がり、さらにその奥には間ノ岳、農鳥岳へと続く白峰三山(しらねさんざん)が続く。
もう写真撮りまくり。
ハイテンションで写真を撮りながら観音岳の取り付きまで来ると、鳳凰小屋へと下る分岐点が見当たらない。
積雪期は誰も通っていないのだろうか。
念のため持ってきている25000分の1地形図で確認。
谷の切れ込む方角や尾根の様子を見る限り、ここに分岐点があるはず。
しかし辺りを見回しても道標らしきものはない。
実は観音岳と思っていた目の前の登りは単なる小ピークで、鳳凰小屋分岐点はこの小ピークを越えたところにあったのだが、思い込みとは恐ろしいモノ。
「これは観音岳」と思いこんだら止まらない。
「左ね」と言われたのに、「はいはい」と返事しつつも自信たっぷりに右に行ってしまうような状態だ。
そんな思い込み状態で、コンパスの指す方角と地形図に記されているルートの地形を意識しながらノートレースの雪面を下って行く。
くされ雪に近い状態なので踵を効かせて快調に下ることができるのだが、徐々に谷の様相になってきた。
この時点で「あれ?おかしいぞ」と思い始めながら進むと(疑問に思ったら止まるべし!)、右岸から積雪下に水が流れ込む箇所に出た。
雪渓の構造を調べた際に得た知識で、「雪渓の中央下は空洞で水が流れおり、両端も空洞ができる」と言うのを思い出し、踏み抜いて落ちてしまう危険性を考慮して極力雪上を歩かないように下りて行く。
ある程度下ると、想定通り鳳凰小屋の水場につながる沢に出て、ホッと一安心。
無事に小屋に辿り着いたから良かったものの、踏み抜きだけでなく谷では落石の危険性もあるため尾根を下るべきだった。
小屋番の青年に見つけられなかった鳳凰小屋分岐点のことを聞くと、「立派な道標があるはずですよ」と、下界の喧騒など知らないかのような澄んだ眼差しで教えてくれた。
こんな眼差しで言われたら反省するしかない。
同行のヨメを危険にさらしてしまった事も猛省。
猛省後はハラが減ったので豪華ディナーを堪能して翌日の山歩きに備えた。