夏が来れば思い出す、と言えば童謡「夏の思い出」でお馴染みの尾瀬。
この歌詞中に登場する水芭蕉が今見頃だ。
そんな水芭蕉を見たいというヨメの要望に応え、夏の思い出には少々早いが1泊2日の尾瀬散策に出かけた。
現在、尾瀬国立公園の中心にある見晴のテン場が11月まで利用不可になっていることもあり、まだ行った事のない尾瀬沼キャンプ場を利用することにした。
このキャンプ場はテントサイトが管理されているため要予約。
それだけに予約さえ取ってしまえば快適なテント生活が約束される訳だ。
ただ、天気予報は雨で、雷注意報も出ている不安定な天気。
ここは状況に応じて柔軟にスケジュールを変更できるプランを組んでおこう。
初日はマッタリと尾瀬沼散策。
天気次第では燧ヶ岳に登るか、三条ノ滝を見に行くか、尾瀬ヶ原を散策するか、更にマッタリとくつろぐか。
翌日もこんな感じの柔軟スケジュールだ。
大清水駐車場に着くと思いのほかガラガラに空いている。
水芭蕉シーズンということもあり混雑を覚悟していたのだが、これは静かな尾瀬歩きが期待できそうだ。
後は天気が崩れないことを祈るばかり。
砂利敷きでゆるい傾斜の沼田街道を1時間程歩き、生態系保全のために靴に着いた土を落とす足拭きマットが敷かれている入山口に到着。
これを見ると「尾瀬に来た」という実感が沸いてくる。
いよいよ尾瀬入り。
豊富な雪解け水が流れる沢の音を聞きながら、山道を快適に登って行く。
登ること1時間程。
残雪の三平峠(尾瀬峠)に到着。
本日の登りはこれで終了。
尾瀬沼とその向こうにそびえ立つ燧ヶ岳。これで風がなく青空ならサイコー。
どちらかと言うと下りよりも登りの方が好きな私にとっては、少々あっけなくて残念だ。
それでも視界が開け、尾瀬沼とその向こうにそびえ立つ燧ヶ岳の格好良さを目の当たりにすれば、私の些細な嗜好などどうでも良くなってしまう。
こんな尾瀬の景色を堪能しながら尾瀬沼のほとりにある休憩所で小休止。
尾瀬沼休憩所には先着していた子供たちと引率の先生(?)が休憩していた。
体力を持て余している子供たちは、「休憩」と言っているのに実に賑やか。
騒がしい感じではなく、ほのぼのとした賑やかさが心地よい。
「雨が降り出す前に小屋まで行くぞー。その前にちょっと集合っ!!」と、号令を掛ける先生らしき人物。
「オマエらが休憩したところ見てみろ!」
「オマエら」?これはいわゆる学校の「先生」ではないな。
何だか説教が始まりそうな予感。
「・・・ゴミがひとつも落ちていない。素晴らしい!!」
なんだ、いい「先生」じゃないか。
自分が褒められた気分になり、私たちも子供たちの後に続いて先を急ぐ。
木道を快適に歩いていると、木道脇の湿地帯に水芭蕉が咲いていた。
あまりにも「夏の思い出」の歌詞の通りで、「本当に夢見て咲いてやがる・・・」と何だか小さな感動を覚える。
水芭蕉の白い花のような部分は、葉が変形した苞(ほう:つぼみを包んでいた葉)で、その形から仏炎苞(ぶつえんほう)と呼ばれる。
仏炎苞に包まれている円柱状の部分に密集しているのが花で、このような形態を肉穂花序(にくすいかじょ)と言う。
と、後々調べて「へぇ」と思う。
プチ知識はともかく、苞に包まれて咲いている様子は眠っている赤子のようで、「夢見て咲いている」とは実にウマイことを言ったものだ。
ただ、「夢見て匂っている」という表現は如何なものか。(赤子のおもらしを想像中・・・)
尾瀬沼キャンプ場手前の釜ツ堀湿原では水芭蕉、尾瀬沼、燧ヶ岳を一望できるナイスロケーション。
水芭蕉のピーク時期は少々過ぎているようだが、それでも一見の価値アリの景色だ。
水芭蕉を満喫しながら尾瀬沼キャンプ場に到着。
この辺りは山小屋やビジターセンターなど施設が充実しており、特に長蔵小屋をはじめとする長蔵小屋系列の施設が多い。
しかもどれもキレイでステキ!
宿泊施設は勿論、尾瀬グッズ盛りだくさんの可愛らしい売店から、閉店していたもののピアノとソファーのある洒落た喫茶店(?)まで、それはもうステキ過ぎる施設群だ。
そんなステキな売店前には、先程の「先生」が生徒らしき子供たちをパシリに使い、美味そうにビールを飲んでいた。
やはり、いわゆる学校の「先生」ではないな。
テント設営のため、受付の尾瀬沼ヒュッテに行くと、「テント受け付けは13時から」とのこと。
要予約だけでなく、受付時間まであったとはリサーチ不足だった。
受付開始まで待っている程、疲労している訳でもないため、トレーニングがてら荷物を背負ったまま尾瀬沼を周回してみることにした。
尾瀬沼のほとりを大江川湿原、浅湖(あざみ)湿原、沼尻平(ぬしりだいら)と、快適トレーニング散策をしながら尾瀬沼キャンプ場の対岸にある沼尻休憩所に行く。
この休憩所も長蔵小屋系列で、尾瀬沼のほとりにありロケーションは最高。
昼食用に購入した長蔵ブレッド(マーマレード付き)も最高。
フレンドリーな接客の店員さんも最高。
すごいぞ長蔵グループ。
温めて出してくれる長蔵ブレッド(マーマレード付き)150円。
休憩後、雨が落ちてきそうな雲行きになってきたこともあり、少々急ぎ気味に尾瀬沼の北西側をぐるりと周って尾瀬沼キャンプ場に戻ることにする。
尾瀬沼越しに見える燧ヶ岳山頂には雲がかかり、水面にはさざ波が立っている。
残念ながら「逆さ燧」を見ることはできなかったが、それでも雨に降られることなく尾瀬沼キャンプ場に戻ってこれたのでヨシとしよう。
受け付けを済ませ、整備された快適なテントサイトにテントを設営。
後はマッタリとくつろぎタイムだ。
改めて売店を覗きに行くと、数時間前の賑わいがすっかりなくなり、誰もいない売店で店員さんもフワーっとしている。
そんな店員さんから情報収集。
さすが、この場に住み込みで働いているだけに、日々変わる尾瀬の景色を心底楽しんでいるのが伝わってくる。
水芭蕉の受粉をハチが行うと甘い香りがして、ハエだと臭くなる等、ウソかホントかわからない情報も興味深い。
そして「長蔵」。
「長蔵」こと平野長蔵さんは燧ヶ岳の登山道を切り開いた長蔵小屋の初代主人。
大正11年、尾瀬ヶ原でのダム建設計画、至仏山にトンネルを掘り発電所を作る計画が発表された際に、単独で上京、請願を提出してきたというエピソードからも尾瀬に対する想いがヒシヒシと感じられる。
こんな長蔵さんは「日本自然保護の象徴」とも言われる人物だったらしい。
なるほど、長蔵さんの意思を受け継いだのか、ここの店員さんも沼尻休憩所の店員さんも「尾瀬ラブ!」な訳だ。
そうこうしているうちに雨が落ちてきた。
そそくさとテントに戻り、チーズフォンデュなんて高カロリーな夕食を楽しむ。
そしてチョイ寝の後、雨音を聞きながら読書、と尾瀬の夜をマッタリと過ごした。