2015年10月24日
槍・穂高連峰:1日目
国設涸沢野営場:静かな晩秋のスキマ山行。

横尾大橋から涸沢へ。


ヨメがテント泊用にザックを新調した。買ったからには使いたいようで、涸沢でのテント泊山行を猛烈にアピールしてくる。

『涸沢』とは、氷河期に氷河によって削られた『カール』と呼ばれる地形のある穂高連峰の『涸沢カール』を指す。夏スキーや紅葉の名所でもあり、立派な山小屋と国設の野営場がある北アルプスの大人気スポットだ。

しかし、今一つ気が乗らない私。

その理由はいくつかあり、まずお金が掛かる。駐車料金、上高地へのバス代、一人1000円のテン場利用料、その他お洒落な山小屋の魅力的な品々・・・。捻挫した足首が完治していないのも気がかりだ。せっかくお金をかけて行くのなら、体調万全で存分に満喫したい貧乏根性がどうしてもわいてしまう。

そして、混雑。

夏山や紅葉シーズンの涸沢の混雑具合は良く耳にする話だ。過去の山行で、おびただしい数のテントが張られた涸沢を稜線上から見下ろした時などは「シーズン中は決して行くまい・・・」と思ったほどだ。

このようにブツブツとごねる私だが、ヨメの熱烈アピールは止まない。

「私がテントを持つから」
「食料も任せて」
「上高地に美味しいアップルパイあるよ」(え?)

ふうむ、そこまで言うのであれば応えよう。

と言うことで、初めてとなる涸沢へ出発。




河童橋から穂高連峰の稜線を眺めます。


沢渡(さわんど)駐車場に車を停め、バスに乗り継いで上高地へ向かう。

駐車場もバス乗り場も混雑はなく、上高地へ向かう人々は皆、軽装の観光者ばかり。紅葉のシーズンが過ぎているとは言え、登山者で賑わっていると想像していた私にとっては意外だった。到着した上高地も登山者の姿はまばらだ。

涸沢の小屋閉まいは11月初旬で、今はまだ営業している。始発の便で来た訳でもないし、既に多くの登山者が涸沢に向かっているのだろうか。

何にしても晩秋の静かな山歩きを望むばかりだ。

上高地から涸沢へは平坦な林道を3時間、そこから沢沿いに3時間程登らなければならない。人気エリアと言っても気軽に行ける距離感でもない。

気合いを入れて歩き始めること数分後。
河童橋を渡ったところにあるカフェ『トワ・サンク』に立ち寄って早くもお茶の時間。

ヨメ曰く、ここのアップルパイは外せないらしく、今回の山行の本命はコレではなかろうかと思える程に熱弁している。テイクアウトしたアップルパイを大事そうにザックに仕舞い込むヨメの姿に、「もしや、ザック新調はアップルパイの為か?」と疑ってしまう。

ヨメ曰く、トワ・サンクのアップルパイは外せないらしい。


改めて涸沢に向けて出発。
横尾大橋までは淡々と林道を歩くことになる。

晩秋で寂しげな樹林帯も静けさが心地よい。ただ、進むにつれて人気はなくなる一方で「今日って平日じゃあないよね?」と不安になってしまう。

やはり人はまばらな横尾に到着。

昼食休憩後、横尾大橋を渡って初めてとなる涸沢へ続く山道に踏み入れる。

左手に屏風岩の大岩壁を眺めながら、枯れ葉散る晩秋の静けさに身をおけば、本日が絶好の山歩き日和であることを実感できる。こんな好天なのに横尾大橋を渡ってからというもの、ほとんど人と出会っていない。猿との遭遇の方が多いくらいだ。

毛繕いする猿。
くつろぐ猿。
背中で語る猿。

これら野生の猿たちが山道を挟んでたむろしている。ここを通過するときの心境といったら、駄菓子屋前でたむろする上級生のカツアゲに怯える小学時代さながらだ。

【猿注意】
近年、人慣れした野生の猿が問題になっています。餌付けは勿論のこと、接近も厳禁です。


枯れ葉散る晩秋の静けさです。


秋色の明神岳。


背中で語る猿。

正面に奥穂高岳を見ながら涸沢カール目指して登り続けます。


猿からのカツアゲに屈せず涸沢カール目指して登り続けていると、思った以上に疲労してきた。

涸沢は雑誌にもよく取り上げられ、女性からの人気もあることで気軽に行きやすい印象を受ける。事前の地形図チェックで行程や標高差を把握していたにも関わらず、心のどこかで「涸沢でしょ、楽勝しょ」と舐めてかかったのが仇となり、想定外の疲労感として表れ始めたのかもしれない。

前方に見える穂高連峰を励みに登る。涸沢ヒュッテも見えてきた。しかし、見えてからがまた長い(長く感じる)。

結構な疲労感を携えて涸沢ヒュッテに到着した。

既に冬支度が整っている涸沢ヒュッテに賑わいはなく、蛍の光が流れ終わった直後のスーパーに似た哀愁が漂っている。テント利用の受け付けをして国設涸沢野営場に出てみると、案の定と言うか広大な敷地には数張りのテントしかなかった。

『涸沢=常に混雑』のイメージは私の幻想だったようだ。

よくよく考えてみれば、シーズン外れなのだから当然かもしれない。静けさを望んでいた割に賑やかな涸沢のイメージを覆されて少々複雑な心境になってしまったが、それでも涸沢カールの絶景をほぼ独占できるなんて贅沢。

それも極上の贅沢だ。

寂しげな国設涸沢野営場。


頭上には前穂から、奥穂、涸沢岳、そして北穂へと続く荒々しい岩峰が連なっている。この荘厳さはパノラマ写真でも再現できない圧倒的な迫力だ。

しかし、テント設営が完了する頃には雲が覆い、吹き付ける風はよろめく程に強くなった。夕方には雨も落ちてくる始末。

もう、極上の贅沢は見る影もない。

次第に雨風は激しさを増し、揺さぶられるテントの中で夕食を頂く。食後にはヨメが上高地から担ぎ上げたアップルパイを頬張り、ささやかながらテント内の贅沢を堪能して涸沢山行初日を終えた。

涸沢は混雑のイメージが強くこれまで意図的に避けてきたが、土日でも空いている隙間的な時期を狙うのはアリかもしれない。メジャーな山域でも静けさを求めるならスキマ山行で決まりだな。

外では相変わらず雨風がテントを叩き続けているが、念入りに固定しているので大丈夫だろう。

それでは明朝の天気に期待して、ヌクヌクとおやすみなさい。

漫画的山行記録

北アルプスで大人気の涸沢。

これまで混雑するイメージが強く、意識的に避けてきましたが覚悟を決めて行ってきます。

晩秋でシーズンも過ぎているので混雑しないといいのですが・・・。

上高地バスターミナルから出発します。

思ったより混雑していません。と言うか、登山者はほとんどいません。

梓川沿いに河童橋へ。

正面に穂高連峰の稜線が見えてきました。

涸沢に行く前にヨメの希望により寄り道。

目的はコレです。

そして、早くもカフェ休憩。

さ、歩こう。

静かな晩秋の雰囲気の中、涸沢目指して歩き始めます。

上高地から涸沢まで6時間ほど。

大人気とは言え、気軽に行ける距離でもないです。

この時期はいつ雪が降ってもおかしくないので念のためアイゼンも持参です。

この辺りはまだ秋の装いです。

秋色の明神岳。

明神分岐を通過。

徳沢のキャンプ場まで来ました。

MICHIKUSA SHOPで道草中のヨメ。

秋晴れの明神岳を眺めながら歩き続けます。

涸沢の登山口となる横尾大橋に到着。

ここで昼食休憩。

こちらが私のメニュー。

そして、こちらがヨメ。

女性は食に対する熱意が違いますね・・・。

では涸沢に向けて登り始めます。

横尾沢沿いに進むと対岸に屏風岩が見えてきます。

そそり立つ屏風岩。

更にテクテクと歩くとケモノの気配が・・・。

山道脇にいたのは毛繕いする猿。

くつろぐ猿。

そして、背中で語る猿。

野生猿の人慣れが進んでいるため、餌付けや接近はしないでください!

屏風岩の岩壁を横目に歩き続けること1時間。

横尾沢を渡る橋まで来ました。

横尾本谷を詰めた南岳方面。こちら、一般山道はありません。

奥穂高岳と涸沢ヒュッテが見えてきました。

見えてからが結構長い・・・。

まだ着かないなぁ。

冬支度が整った涸沢ヒュッテに到着しました。

奥には涸沢小屋も見えます。

涸沢ヒュッテには使い込まれた山道具が展示されていました。

テント利用の札を受け取って国設涸沢野営場へ。

ちなみに過去の国設涸沢野営場の様子はこちら。

激込み!!(2014/9/14吊尾根から撮影)

で、本日の国設涸沢野営場はこちら。

・・・。

山小屋営業期間中の『涸沢=常に混雑』は私の幻想でした。

シーズン外れだし、そりゃあそうか。

涸沢からは常念山脈が見えます。

穂高連峰の岩稜に雲が掛かり始めています。

風が強く、雨も落ちてきたのでテントへ逃げ込みます。

テントを叩く雨風の音を聞きながらくつろぎの時間。

そして、ヨメが上高地から大事に持ってきたアップルパイを頂きます。

明朝まで雨があがるといいなぁ。

では雨風の音を聞きながらおやすみなさい。

おわり

漫画的山行記録
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本日の山行情報

複数人山行/1日目/テント泊/ハイキング/マイカー登山

涸沢カール(からさわかーる)

詳細(外部リンク)

本日のスケジュール

上高地バスターミナル[着] 07:50 - [発] 08:08
 ↓ 7分 遊歩道/林道
トワ・サンク(カフェ)[着] 08:15 - [発] 08:38
 ↓ 163分 遊歩道/林道
横尾大橋[着] 11:21 - [発] 12:22
 ↓ 186分 
涸沢ヒュッテ[着] 15:28 - [発] 15:38
 ↓ 3分 
国設涸沢野営場[着] 15:41 - [発] 16:16

行動時間:5時間59分(休憩含む)

本日のおすすめ(お土産/温泉情報)

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