自宅から比較的近い瀧山へ。
山形市街地から蔵王を眺めて育った私だが、私の言う『蔵王』とは「南東に見える一番高い山」「スキー場と御釜がある所」程度の気持ちでしかなかった。
しかし改めて調べると、山形市街地から見えるのは瀧山であり、蔵王連峰に含まれるとは言え、私の考えていた『蔵王』、すなわち「一番高い山(熊野岳)」が見えている訳ではなかった。
山形出身者として他県で「蔵王、素晴らしいっすよ」と言いふらしていただけに、この事実を知った時は地味に恥ずかしさがこみ上げたものだ。(ちなみに蔵王連峰に『蔵王』と言う名の山がない事も去年知ったばかり)
これは現地に行ってみるしかないな。
東北芸術工科大学の裏手にある『悠創の丘』遊歩道(林道?)から西蔵王公園、西蔵王放牧場に抜けて瀧山を目指す。
車はないため自らの足で自宅からフル徒歩だ。
外はまだ真っ暗で、雪がチラチラと舞い、路面はツルツル。
それでも風がないためか、寒さはあまり感じず、スタスタ歩いていると早くも体が温まってきた。
『悠創の丘』からはヘッドランプを点け、道に迷わないように地図とコンパスで現在地を確認しながら進む。(前回の失敗から学んでいる)
この辺りの遊歩道は、人が歩く程度の除雪がされており、苦労する事なく快適に歩く事ができる。
あまりにも快調なので、途中、ショートカットで除雪なしでノートレースの遊歩道と思われる道を進む。
『歩き』ははじまったばかり。
まだまだ気力体力ともに十分。
ツボ足で雪を掻き分けガシガシと進んで、まずは西蔵王公園へ抜ける。
ここからは、冬季閉鎖され除雪されていない道路を進むことになる。
一般道路とは言え、フカフカの新雪で雪が締まっていない状態ではツボ足も大変だ。
そこで最近購入した新たなアイテム『ワカン』の登場。
『スノーシュー』は高くて手が出ず、その4分の1程度の出費で購入できる『ワカン』にした訳だが、これが意外と良かった。
浮力は『スノーシュー』に及ばずとも、12本爪アイゼンを着けたまま装着できるものいい感じ。そして何もより軽い。
スノートレッキングだけでなく、山にも登りたい私はすっかりワカン派だ。(金銭的に余裕があったらどうだったか)
ボフッボフッと雪面にワカンの足跡を残しながら進み、テレビ塔のあるちょっとした峠を越えると、下方に西蔵王高原ラインへと続く県道が見えてきた。
そして、正面には今にも日が昇らんばかりに後光の指す瀧山の雄姿。
それはそれは神々しい。
ここまで3時間程かけて、歩いて来た甲斐があった。(車で来ても見れます)
あちこちに吊り下げられた凍み大根に情緒を感じながら、除雪済みの車道に沿って西蔵王放牧場へ向かう。
【東北名物:凍み大根(しみだいこん)】
真冬の厳寒期に作る保存食。適当に切った大根を外に吊るし、「夜に凍る→昼に融ける」を繰り返して乾燥させる天然のフリーズドライ食品。(「本日のフォトアルバム」に参考写真あります)
ようやく瀧山の登山口となる西蔵王放牧場に到着。
結局、ここに辿りつくまで3時間以上かかっており、それなりに疲れたので小休止。
帰りの事も考えると「取りあえず今日はもう十分かな」と、ふと思う。
が、苦行スイッチオン。
苦行自体は嫌いだが、それを乗り越えた先が好き。
天気は安定しているし、タイムリミットを12時と決めて、行けるところまで行ってみよう。
アイゼンを装着して更にワカン装着。
軽くカロリーを摂取して準備万端、山頂目指して改めて出発だ。
閉鎖されている西蔵王高原には数日前のトレースが1~2本残っているだけで、まっさらな雪原と化している。
見上げると空は真っ青。
体力的に苦行でも、精神的には最高。
もう高揚感たっぷりに走りだしたい気持ちだ。
雪原化している放牧地を直登してみれば、手当たり次第に人に勧めたくなる爽快感を得る事ができる。
早朝で誰もいないこのシチュエーションを独占しているのだから尚の事。
トレースを辿って放牧地を登ると、いよいよ瀧山登山口(乳母神コース)だ。
こちらは尾根伝いのルートとなり、難所は特にないようだが積雪期はどうだろう。
もっとも初めて歩く山なので比較しようがない。(注:雪山を登る際は、コース把握のため無積雪期に登っておく事が理想です)
地形図を見る限り、標高1000m付近から急傾斜の箇所がいくつか見られる。
基本、樹林帯の尾根歩きなので雪崩などの心配は無いだろうが、滑り落ちないように注意だ。
先週、登った方がいるのだろうか。
山道にはうっすらとトレースが残っており、道案内役として心強い事この上ない。
心強さもさることながら、一度踏みしめられたトレースは、雪が固まるのか歩きやすい。逆にまっさらな雪面を歩いてしまうと膝上位は埋まってしまう。
ここは先人の残したトレースに歩調を合わせて、出来る限り疲れないように利用させてもらおう。
それにしても歩幅が広い。
先人はよほどの巨漢だったのか。
少々登って視界が開けると、新雪で雪化粧した木々が尾根に並び、それがまた青空によく映える、見事な雪山の稜線が延びていた。
純白の木々に清々しいまでの青空。
白と青の世界だ。
遠方からでも至近距離からでもなく、この微妙な距離から眺める雪山の稜線。
この時期、この天気、このタイミングでしか見れない景色だと思うと、ちょっと得した気分になる。
雪景色を堪能しながら、なだらかな山道を進んでゆくと、地形図で確認した通り、傾斜がきつくなってきた。
所々、急斜面のため、頼りにしていたトレースもわかりづらく、泳ぐようにラッセルして進まなければならない。
しかも進行スピードはすこぶる遅い。
数メートル先にチェックポイントが見えているのに、このちょっとした距離が遥か遠くに感じるほどに遅い。
もう、溺れているかのようなラッセルで進み、登る。
ただ、こんな状態でも細尾根で滑落の危険を感じる箇所もあるため冷静さはキープだ。
ハアハアと息が切れて汗ばんでも、手で雪を掻いている事もあって、末端冷え性である私の手先が冷たくなってきた。
そしてカロリー消費が半端ないのか腹の虫も騒ぎ出した。
「うわー、苦行・・・」と感じつつも、カロリーだけは摂取しながら、その先の景色を見るためにもがく。
右手に見える尾根との合流地点まで行けば、後は山頂まで傾斜が緩む事を地形図で確認している。
そしてその合流地点である小ピークはもう目前に迫っている。(期待感からそう見えるのかも)
それにも関わらず雪の中を泳げど泳げど一向に進んだ気にならず、時間だけが着々と進んでゆく。
山頂で達成感と共にアツアツのカップヌードルを食べることを楽しみにここまでやって来たが、時間的/体力的に考えると登頂は難しそうだ。
休み休み行けば日が暮れる前に山頂まで到達できるとは思う。
しかし、この先の積雪状況が分からないし、下山の体力や時間を考えると、やはり途中で撤退するしかない。
この時点で「今日は登頂、無理」と、わかっていても、まだ苦行スイッチがオフにならないのか、時間までひたすら雪を掻きわけて進む。
そして敢え無く時間切れ。登りの体力切れ。
山頂方面をしみじみと眺めた後、気分を入れ替えて下山に就いた。
下山は自分のトレースを辿って滑るように下るだけなのでラクなもの。
「これならまだ登れたか」と、ちょっと思ったりもしたが、おとなしく下山。
あっという間に西蔵王放牧地まで下山すると、zipfy(一言で言うとソリ)や、スノーモービルを楽しんでいる方がチラホラいる。
私が知らなかっただけで、ココは隠れ人気スポットのようだ。
道路まで戻り、アイゼン/ワカンからの解放。
そして腰をおろして山頂で食べる予定だったカップヌードルを作る。
山頂じゃなくてもウマイな。
「いや、山頂の方が何割増しかウマイ」、などと考えずに食べる。
カップヌードルをすすりながら、近くに居た地元っぽいおじさんに付近の山情報を伺ってみた。
予想通り山形市在住のおじさんで、山話に花を咲かせていると、車で来ていたらしく、「もう帰るから下まで乗せて行ってあげるよ」(山形弁で)と、誠に有り難いお言葉が。
「これと言って何もさし上げられるモノが無いんですが・・・」と言うと、「また別の人にしてあげて」(照れくさそうな山形弁で)と、これまた仏様のような慈悲深いお言葉が。
ご厚意を有り難く受け、あっと言う間に市街地まで戻ってこれた。
山頂に行けなくともイイ事はあるものだ。
今回は登頂できず、苦行的要素が多い気もしたが、結果的に満足いく山歩きとなった。
よくよく考えると自宅から歩いて行こうなどと思った時点で苦行か。
今回出会ったおじさんのように慈悲深くマッタリと山を歩ければラクなのに。(ラクするためか!)
【今回の学び】
登山口までのアプローチ → 次回は除雪された車道を利用。1時間以上は短縮出来そう。
コースの把握 → 無積雪期に登っておくのが理想。地図の先読みもやっぱり大事。
新雪の急傾斜 → 新雪だとアイゼンが効いている気がしない。もっと雪が締まる時期だと違いそう。
カロリー補給 → 手軽に食べられる行動食をたっぷり持参して、燃やせカロリー。
手先の冷え → 手先の前に基本となる胴体を温めてみよう。あまり好きではないベストでも検討するか。
苦行スイッチ → オン/オフにメリハリを。入れっぱなしダメ。