ガスがかかっているハマグリ山方面。道路はすっかり雪に埋もれています。
正月に偵察に行った山形神室に挑む。
防寒装備を整え、友人Kと出発地点の関沢インターに向かった。
山形市内はお月さんも出ており、風もそこそこ穏やか。
しかし関沢インターから見上げる山形神室方面は真っ白でガスの中だ。
眺望の期待はできないが、取りあえず笹谷峠まで登り、その先は状況を見ながら判断する事にしよう。
正月に来た時は新雪でフカフカ状態だった山道も、1ヶ月経った現在では何人ものトレースがあり、昨日の雨や今朝の冷え込みもあって雪面はイイ感じに締まっている。
関沢インターの時点で路面がツルッツルだったため、最初からアイゼンを装着していたのが正解だった。
アイゼン効果をフルに発揮しながら、快調な足取りで笹谷峠に向かう。
山形県と宮城県の県境である笹谷峠は風の通り道となっている強風地帯。
正月に来た時もそうだったが、今回も笹谷峠は強風が吹き荒んでいた。
肌を露出していると寒さで痛くなり、バラクラバ(目出し帽)やゴーグルがなければとても歩けるものではない。
ここは一端、笹谷峠にある山形南高等学校山岳部OB会の山小屋(?)の陰で、風を凌ぎつつ様子を見る事にした。
この隙に防寒対策や初めて使用するピッケルなど、装備を万全に整えておく。
建物の陰で風を避けているため、煎餅をボリボリ食べながら悠長に装備を整える事が出来たが、一度外に出てしまうと、ザックから物を出す事すら不可能と思えるほどの強風。
この状況を体感すると、稜線上での天候急変がいかに怖いものかを思い知らされる。
日が高くなるにつれ、相変わらずガスっているが風は収まってきた。
これは行けるぞ。
ジッとしていると寒い事もあり、「待ってました」とばかりに前山に向かって出発した。
笹谷峠から山形神室までは、前山→ハマグリ山→トンガリ山、そして山形神室へと北に延びる稜線を進む。
ハマグリやらトンガリやら近所の公園にありそうな可愛らしいネーミングの山が連なるからと言って油断するべからず。
地形図を見る限り、稜線の西側(山形側)の斜面は比較的なだらかだが東側(宮城側)は急斜面。
本日は西からの風が強いため、風に煽られて東側に転倒/滑落なんてしようものならタダではすまないだろう。
十分に注意しなければ。
最初に目指す前山は、ハマグリ山の手前にあるちょっとしたピークで、南側斜面が円錐形に広がり、この時期ではすっかりスキーゲレンデのような状態になっている。
ここは西からの風を避けるため、出来るだけ東側に周り込んで登る事にした。
結構な斜度はあるが、完全に風を回避し、登りで燃えるカロリーのおかげで寒くもなく、締まった雪にはアイゼンも良く効く。
出だし好調。
難なく前山を越え、ガスと雪で真っ白な広い尾根を進んだところに山頂を示す標識を発見した。
標識にはハマグリだろう貝殻で『ハマグリ山』の文字が描かれている。
なんてお茶目な標識だろうか。
この標識の設置が屈強な山男どもの仕業と想像するだけで実に微笑ましい。
ニヤニヤしながら標識の写真を撮り、次なる通過地点であるトンガリ山へ向かう。
昔話のようにほのぼのさせられる山名の『トンガリ山』だが、実際はそんなに甘くはない。
規模こそ小さいものの、その名の如く尖った山容で、山頂直下の登りは要注意の険しさだ。
足元に注意しながらトンガリのてっぺんまで登り詰めると、本来、見晴らしが良く絶景が広がっているのだろうが、残念ながらガスで真っ白。
山頂の標識が至って普通なのも残念。(ハマグリ山から変な期待をしていた)
ガッカリと落ち込んで、吹きっさらしの山頂で立ち止まっていても凍えてしまうばかりなので先を急ぐ。
地形図からの情報をイメージしながら歩いた感じだと、山形神室が目の前に見える所まで来ているはず。
晴れていれば稜線を見渡しながら縦走できるコースも、こんな視界不良の状態では、すぐ先にある目的地ですら確認できない。
風も出てきて、デジカメの電源がまったく入らない程に冷え込んできた。
ここはカロリー補充のため一端小休止しておこう。
風除けに丁度好さそうな木陰を見つけて腰を下ろし、デジカメを懐で温めつつ行動食を食べる。
木陰程度の風除けでも体感気温は随分と違い、一瞬暖かく感じてしまう。
それでもやはり寒い事には変わりが無く、ザックの中では予備として持ってきたペットボトルの水が凍っていた。
休憩しながら空を見上げてみると、時折、青空が見え隠れしている。
これまで寒々しい空模様しか見えなかっただけに、少しでも青空を拝めるとテンションが上がる。
過度な期待は控えながらも、山頂からの見晴らしに期待をふくらませ、最終目的地の山形神室に向けて再出発。
ガスに隠れていただけで、読図通り、休憩地点から山形神室山頂は思いのほか近かった。
急傾斜を登りきった広い山頂で、山形神室山頂を示す至って普通な標識を発見。(標識に対して、また変な期待をしていた)
頭上ではすごい勢いで雲が移動している。
そして、祝福するかのようにガスが晴れてゆく。
去年の夏に天候悪化で断念した山形神室登頂を、厳冬期のこの時期に達成できるなんて嬉しい限り。
何よりもタイミング良く回復しつつある天候を前に、「イヤッホーッ!」とテンションも高まる一方。
それでも風が強く、凍える山頂に長居は無用だ。
来た道を引き返そうとすると、徐々に青空が広がり、待ちに待った眺望が開けてきた。
真っ白だった景色から一転、ここまで歩いてきた縦走路が姿を現す。
白い稜線は青空の背景がよく似合う。
達成感もあり、このタイミングでこの景色を見る事ができるなんて・・・。
これだから山歩きは止められんのだッ!
テンション高く、「ワーイ!」と、山形神室を滑り降りる。
その時、アイゼンの歯が尻に引っ掛かり、「ビリッ」と何か破けた音が。
と同時に変な格好になってしまい、足首をグリンと捻ってしまう。
「うおッ!」と、慌てて立ち上がり、すかさずお尻をチェック。
お尻自体は無事だったが、ズボンに大きな穴ふたつ。
そして捻った足首は、今のところ歩けそうだが何だかイヤな感じ。
あー、いい歳してはしゃぎ過ぎた。
いや、この程度で済んだのが不幸中の幸いと考えるべきか。
どちらにしても反省しながら帰路に就く。
当然、しぼんでいるテンション。
帰りは、御釜のある刈田岳まで見渡せる程に視界が回復し、山形側、宮城側の街並みもクッキリと見る事ができた。
来る時はガスであまり見えなかった稜線東側には雪庇が張り出し、地形図通りの急斜面が谷まで切れ落ちているのも確認。
そして振り返ると、たおやかな山容の山形神室と、その先に険しく厳つい仙台神室(神室岳)が鎮座している。
優しい感じの山形神室と並んでいるからか、仙台神室がより一層荒々しく見える。
おお、すごい山容だ。
いずれ仙台神室も歩いてみたいな。
言うまでもないが、はしゃぎ過ぎずに・・・。
手前にトンガリ山、奥に山形神室、右手には仙台神室。
友人Kにストックを借り、念のため捻った足首に負担をかけないようにしながら下山。
「尻から血を流した姿で救助されたら洒落にならんかったな、ハハハ」
と、冗談半分で話していたが、同行者は勿論、家族や知人、救助に関わる方々の事を考えると冗談にならない。
皆さん、くれぐれもお気をつけて。(と、自分に言い聞かせてます)