仕事の用事で神奈川県に行くヨメに同行して、翌日、マイカー規制が始まる前の富士宮口五合目から日帰り富士登山決行。
先週参加した富士登山ツアーでは雨風のため撤退する残念な結果となってしまった私たちにとって、思いのほか早い段階で富士山リベンジの機会が巡ってきた訳だ。
登頂できず悔しがっていたヨメも登る気満々。
温泉施設で仮眠をとり、3時に富士宮口駐車場へ到着。
雲がかかっているとはいえ、星空が見えて風も穏やか。
付近の天気予報では午後から崩れるようなので、登るなら早い方がよさそうだ。
支度を整え意気込んで出発すると、登山口に「七合目から頂上まで残雪の為、通行止め」の看板が設置されていた。
しまった!アイゼンを忘れた・・・。
今回も登頂は無理なのか、と出鼻を挫かれガッカリしながら、とりあえず行けることろまで行ってみることにする。
登山口から少し登ったところにある、環境省が2億円かけて作ったというハイテクトイレをチラリと見学。
さすがに綺麗。
そしてトイレは無理やりにでも済ませておいた方が良かったと後々実感する事となる。
七合目から先は通行止めにも関わらず、想像していたより登山客が多い。
韓国からのツアー団体もいて、ノートに『高山病』と書くなり「コレ、ドウ読ム?」と好奇心旺盛に聞いてくる日本が大好きそうなおじさんもいる。(単に「通行止め」が読めなかっただけか?!)
登り始めると宝永山の向こう側が明るくなってきた。
砂礫の山でのっぺりとした宝永山の山頂には、豆粒ほどの人影が見える。
この時期の富士宮口ルートは、八合目より上に登らないと地平線からの御来光を見ることができず、宝永火口の縁から日が昇ることになる。
御来光はしょうがないにしても、早くお日様を拝みたい気持ちでワッセワッセと登って行く。
ようやくお日様を拝めた頃に新七合目の御来光山荘に到着。
小屋番さんに山頂までの山道状態を伺うと、「九合五勺で残雪はあるけど行けない事はない。本当はダメだけどブル道(ブルドーザー専用道)を使って迂回することもできる。」と嬉しい情報を得ることができた。
諦めかけていた剣ヶ峰登頂に希望が沸いてくる。
御来光山荘の脇にある「通行禁止!」と大きく書かれている警告看板をしっかりと確認してから自己責任で登り続ける。
と言うか、他の登山者は警告シカトで、当然かのように登っていく。
新七合目を出発して、「よし、次は八合目!」と思いきや、到着したのは元祖七合目。
帰宅後に調べてみると、「元祖」と名乗るだけあって、昔はここが七合目だったことが判明した。
富士宮口ルートに通じる富士山スカイライン(静岡県)は、もともと三合五勺が終点となっていたが、当時、既に開通されていた富士スバルライン(山梨県)の終点が五合目だった事に対抗して、三合五勺の終点を「五合目」と呼ぶことに。
そのため、元から呼ばれていた○合目が繰り上げになり、新七合目と元祖七合目が誕生したらしい。
八合目と期待していた登山者を落胆させるこんな事情もあってか、高山病で辛そうな方がボチボチ出てきた。
元祖七合目の山口山荘前では、頭を抱えて酸素缶を吸引していたり、地べたにうずくまり「ウーン」と辛そうに寝ている方もいる。
私もヨメも有り難いことにまだ高山病の症状は出ていない。
この調子で登れば大丈夫そうだ。
八合目~九合目までは傾斜がきつくなり、砂礫や岩場で歩きづらくなる。
そして大詰め、九合五勺からの胸突八丁の登り。
小屋番さんの情報通り残雪があり、胸突八丁の名の通り、富士宮口ルートの中で最も急峻な箇所だ。
標高も標高3500mを越えているので余計に胸を突かれそうな予感。
「もう一息!」と登り始めると同時に若干の尿意を感じたが、この時はさほど気にすることもなく胸突八丁へと足を踏み入れる。
残雪の登りはこれまでの登山者のトレースで道がキッチリ出来あがっており、足を滑らせて滑落!なんて事はそうそうなさそうだ。(トレースを辿ればの話)
そして胸突八丁最後の岩場を登り、鳥居をくぐって富士宮口山頂に到着。
高山病も発症せず無事に到着出来て嬉しい限り。
初登頂のヨメも嬉しそうだ。
富士宮口山頂付近には、浅間大社奥宮、富士山頂郵便局、頂上富士館、そして公衆トイレがあるのだが、まだどこも開いておらず閉鎖中。
それでも、「通行禁止」と警告があったにも関わらず、ここまで登れただけでもうけモノだ。
小休止後、日本最高標高地点となる剣ヶ峰へと向かう。
剣ヶ峰山頂には気象観測所があり、そこまでは「馬の背」と呼ばれる両側が深い谷となっている急斜面を登らなければならない。
昨年はハイシーズン中で行列を成す馬の背を目の当たりにして剣ヶ峰には登らず下山したが、今回はシーズン中でも登山者は少なく悠々と登頂できそうだ。
【富士山マメ知識】
富士山は山頂噴火口外周のどこかに到達すれば登頂とみなされます。
実際の最高標高地点は富士山頂にある八つのピーク(八神峰)のひとつ剣ヶ峰(3776m)になります。
更に剣ヶ峰での最高地点は三角点でも石碑でもなく、二等三角点の北側にあるちょっとした岩の上(3776.24m)です。
日本最高標高地点に向けて、一歩一歩登ってゆく。
ここを登れば個人的な最高標高地点は3776mとなり、更新するには海外に行くしかないな・・・、などと考えながら一歩一歩踏みしめて登る。
そして登頂。
周囲にはガスがかかって景色を眺めることはできなかったが、登りきった感慨に浸るには十分な状況だ。
他の登山者、団体も思い思いの山頂を楽しんでいる。
登ってくる時に出会った韓国人のおじさんも無事に登頂して、「『剣ヶ峰』コレ、ドウ読ム?フリガナ振ッテ」と相変わらず好奇心旺盛に聞いて周っている。
富士山はいいな。
「登りが単調」と言う意見には同意できるが、それこそ富士山ならではの山歩きで、決してつまらないとは思わない。
来年も来よう。
さて、下山だ。
午後から天候が崩れる予報だったこともあり、足早に下山を開始。
下山は胸突八丁を迂回してブル道で九合五勺まで下る事にする。
登頂時の感慨も収まり、ブル道を下山していくと、忘れかけていた尿意が復活。
しかも便意も催すオマケ付きで。
携帯スコップ等の緊急トイレ道具は持参しているが広がる砂礫では身を隠す事が難しく、仮に穴を掘って用をたしたとしても、こんな高所では微生物がいないため分解に時間がかかると聞いている。
視界を遮るガスに身を隠して「小」だけでも済ませようかと考えたが、「大」と「小」をガマンしている状態で「小」のみ放出することは不可能。(少なくとも私は)
もう、意を決して下山するしかない。
使用できるトイレで最も近かったのは新七合目の御来光山荘。
はるか彼方に思える遠さだ。
いっそ、このガスと雨に紛れて・・・と思うこと数知れず。
そこまで持つか?!と、何度か便意の波に襲われながら下山していく。
そしてこの切ない状況に追い打ちをかけるかのように、予報より早く大粒の雨が落ちてきた。
ズブ濡れになりながら何とか御来光山荘のトイレに辿り着き、山頂から我慢に我慢を重ねた状態から解放され至福の時を迎える。
これにはトイレ使用料200円のところ1000円払っても惜しくない。ありがとうございましたッ!
その後、便意との戦いに力を出し切ったのか、疲労感がドッと押し寄せてきた。
五合目駐車場に到着する頃には疲労困憊。
こんな切ない思いをするのは懲り懲り。
今度はスコップだけでなく、トイレキットも持参しよう。(日本最高標高地点到達の感動は何処へやら)
【富士宮口トイレ情報】
2012年7月8日時点、元祖七合目から山頂までのトイレは小屋も含め全て利用できませんでした。
気をつけろ!