古寺鉱泉から大朝日岳へ。
当初は日暮沢小屋からの入山を予定していたが、役場に問い合わせたところ、途中の林道は土砂崩れのため通行止め。
急遽、古寺鉱泉からの入山に変更となった。
普段の町の生活では、営業時間の確認や予約をしない、行き当たりばったりな性格の私。
そんな私も、山歩きに関しては事前確認ができる大人に成長したものだ。
ことのほか、ここ最近の台風の動向を気にしていたのが結果的に良かった。
しかし、決して天気が良いとは言えず、雨中の山行となるのは間違いない。
冷静な大人としての判断が問われる場面に出くわす可能性も念頭に置いておこう。
今回はヨメも同行して、大朝日小屋で宿泊する1泊2日のスケジュール。
以前、大朝日岳の山行でブヨにくわれ、試合後のボクサー並みに顔を腫らした経験を持つ私としては、ヨメが東北の屈強な虫たちの洗礼を受けないか心配だ。
初めての山域では第一印象が大事。
ヨメに、『朝日連峰=虫刺され』と印象付けられないように、虫たちには手加減してもらいたい。
古寺鉱泉駐車場に到着すると、予報通りの雨模様。
しかし、今回は『食』のお楽しみがある。
前日に山行用として購入した、山形にまつわる食材の数々だ。
- 食べきりサイズ(2合)の無洗米『つや姫』
- 真空パックされた鯉の味噌煮
- こうじなんばん『香糀辛』
- 地場物のキュウリ、トマト、プルーン
- べにばなブレンド珈琲のドリップパック
山での食事は、登山運動による空腹感で旨味が増す(気がする)。
私にとってそれは、雨でも山へと駆り立てる程のご褒美なのだ。
そんな訳で用意した食材を背負って、雨対策を万全に山歩きスタート。
最初から暑い。
雨対策で着込んだ上下レインウェアの内部は、早くも汗だくだ。
そして、熱が籠っているせいか、思うように調子が出ない。
外側は雨で濡れ、内側は汗で濡れる。
防水透湿性素材であるゴアテックスの性能が追い付かない程の濡れ具合に「結局濡れるなら・・・」と、レインウェアを脱いで歩きを再開。
直接雨に打たれ、熱を発散させながら歩いていると、いくらか調子が戻ってきた。
と同時に、少しずつ蓄積されるびしょ濡れの不快感。
そんな不快感を解消してくれたのは、冷たくて美味しい飲み水の存在だ。
古寺鉱泉から大朝日小屋までの山道には、一服(いっぷく)清水、三沢(さんざ)清水、銀玉水(ぎんぎょくすい)の水場があり、どれも冷たくて美味しい。
特に銀玉水のまろやかさは絶品。
雨も天からの恵みに違いないが飲み水はまた別物。
これは山からのご褒美だ。
一服清水、三沢清水で喉を潤しながら古寺山までやって来た。
視界が開けた山頂では一時的に雨が止み、ガスの中から小朝日岳が姿を現している。
徐々に雲が流れ、大朝日岳へと続く稜線も次々と姿を現し始めている。
快晴であれば、空の『青』と、生い茂る『緑』、そして雪渓の『白』とが織り成す東北らしい夏山の景色を楽しめるのだが、本日の天候でそこまで要求するのは難しい。
むしろ、稜線の景色が見れただけでも幸運と思うべきだろう。
そんな朝日連峰からのご褒美タイムも数分で終了。(ちぇ)
周囲はまたしてもガス景色に包まれ、小雨も降ってきた。
この状況では小朝日岳に登っても何も見えないだろうと思い、巻き道経由で大朝日小屋へと急ぐ事にする。
大朝日岳への主稜線に乗ると、山道脇に咲く花の種類が増えてくる。
一面ガスで真っ白な状況下では、ずぶ濡れで少々活気の無い花々も、目を楽しませてくれる貴重な存在だ。
褒美、褒美。
褒美を求めてキョロキョロしながら歩く。
雨に降られて濡れてしまっても、風は穏やかで寒さを感じない。
豪雨や雷雨など身に危険を感じる程の荒天にもならず、シトシトと小雨が降るような静かな雰囲気。
これはこれで悪くない山行かもしれないと思えてきた。
ガスに覆われて静けさの漂う山道を歩き続けると、突然、目の前に大朝日小屋が現れた。
地形図で現在地を把握していたとは言え、思いがけない到着は『アタリ』を引いたお得感がある。
【大朝日小屋】
収容人数100人の綺麗な避難小屋です。
環境保全型のトイレがあり、宿泊は山小屋協力金として1泊1500円となります。
小屋に入ると、シーズン中は常駐している小屋番さんに「お疲れさまー」と出迎えられた。
誰もいない静かな山道も好きだが、こんな人の存在も「ホッ」とする。
大朝日小屋には10人ほどの先客がいた。
皆さん全国各地から訪れているようで、百名山を目標にしている方、プロのガイドで下見に来ている方など目的は様々。
目的は何であれ、こんな天気でも登ってくるのだから、皆さん山好きに違いない。
そんな中でも、山形出身の私としては、1年前から登山を始めたと言う山形在住の若いご夫婦(?)を応援したい。
奥羽山脈を代表に、飯豊連峰、朝日連峰などが鎮座する、山好きにとっては恵まれた環境の山形だが、これまで山形県内の山行で出会った登山者は、ほぼ全員県外の方。
稀に出会う山形県民は、昔ながらの年輩山男か山菜取りの方で、若い登山者は皆無。
いや、別に問題はないのだが、山頂からの山形の景色を見てほしい気がする。(本日のような天気では見れませんが)
取り合えず時間もあるので、荷物を置いて金玉水まで散歩に出掛けてみよう。
水場の金玉水までは15分程だ。
限りなく100%に近い確率で小学生に茶化されるだろう『金玉水(きんぎょくすい)』は、稜線から少し外れた場所にある。
金玉水の水源は上部の雪解け水が主となるため、飲んでみると硬水な感じがする。
ちなみに、来る途中に立ち寄った『銀玉水(ぎんぎょくすい)』は、雪解け水の他に自然に濾過された水などもブレンドされてるので、まろやかで軟水な感じ。
どちらも共通して言えるのは冷たくて美味しい。
山形的に言うならば「つっだくて、んめぇ」だ。
ただでさえ水の確保が難しい稜線付近で、硬水と軟水のどちらも楽しめるなんて、水が豊富な東北の山ならではだ。
【硬水と軟水】
1000ml中の水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量により『硬度』が決まり、この硬度によって硬水、軟水が分類されます。
硬度が高ければ硬水、低ければ軟水です。
さて、これまで景色や水など様々なご褒美を頂いてきたが、そろそろ夕飯時。
自ら持参したご褒美を頂く事にしよう。
この散歩中、銀玉水に浸しておいた『つや姫』を炊いて、尾花沢の郷土料理『鯉の味噌煮』を炊きたて御飯にオン。
味噌汁を用意して、地場物のキュウリにこうじなんばん『香糀辛』を乗せれば、山形の食材によるご褒美山飯の出来上がりだ。
(酒飲みのヨメは出羽桜で一杯)
ああ、至福。
コレ、ご飯が無限に入るな。
ご褒美、ここに極まれり。
食後に、紅花ブレンド珈琲を飲んでマッタリしていたら、いつの間にか寝ていた。
ふと起きると、外はもう真っ暗。
本日は大朝日岳の北側に位置する山形県鶴岡市で、赤川花火大会が行われると聞いている。
天気は悪いが、期待せず外に出て見てみよう。
外では花火を見る気満々の小屋番さんが、ラジオで放送している実況中継を流しながら望遠鏡を覗いていた。
上下に雲は掛かっているものの、辛うじて街の光は見えている。
望遠鏡の先を眺めていると、雲の隙間から小さな光がパッと開いた。
今年、初めて目にした花火だ。
音もせず、遠く小さな花火を山から見下ろせるなんて。
最後にオツなご褒美を用意してくれたモノだ。