2014年10月26日
足尾山地:2日目
皇海山:三山駆けの伝統的ルートをゆく。

新月のため満点の星空。え?見えない?(手持ちのカメラではこれが限界)


2時半起床。

宿泊地の庚申山荘では、快適な布団でゆっくり休めた。
おかげで歩く気力が満ち溢れんばかりの体調の良さだ。

本日の行程は庚申山~鋸山~皇海山を歩く、伝統的な信仰登山として『三山駆け』とも言われる難ルート。
実はこのルート、一年前にも訪れているのだが、その時は天候不順のため皇海山まで行けなかった。その点、本日午前中までは天気も悪くないようなので、1年越しに『三山駆け』を完遂できそうだ。

ただ、今回は電車で来ているため、山行の終了地点は原向駅であり、三山駆けの終了地点でもある。小学校の先生的に言うなら、無事に最寄り駅に戻るまでが三山駆けだ。(そこは『家』でいい?)

何にしても本日は長い一日になりそう。
気を引き締めて出発だ。

【三山駆け】
3つの山を歩き渡る修験道は主に『三山駆け』と呼ばれます。
銀山平からの三山駆けは、庚申山、鋸山、皇海山を指しますが、厳密には『鋸11峰』と呼ばれる、庚申山、御岳山、駒掛山、渓雲山、地蔵岳、薬師岳、白山、蔵王岳、熊野岳、剣ノ山、鋸山の合計11のピークを越える事になります。


ヘッドランプの明かりを頼りに進みます。


昨日は新月。それだけに山中は暗闇を通りすぎて、自分の手すら見えない程、真っ黒な空間になっている。頭上には満点の星空が広がっていても、星明かりは照明効果ゼロに等しい。
この状況ではヘッドランプだけが頼りとなる。万が一故障してしまったら、夜明けまでその場を一歩も動けないだろう。

ヘッドランプで行く先々を照らしながら、周囲を徘徊するシカの眼がギラギラと光る暗闇の中を歩く。野性動物との出会い頭の遭遇を避けるためにも、必要以上に熊鈴を鳴らす。

昨日の山道チェックのおかげもあって、道迷いもなく庚申山に到着した。

まだ、周囲は真っ暗だ。
本日の日の出時刻は6時前。私の計算では、鋸山付近の見晴らしの良い場所で朝日を拝める想定なので、まだ暗くても問題ない。

ここに来るまでの間に慣れたのか、出発時と比べると暗闇に対する恐怖心が薄らいできた。時折こだまするシカの鳴き声(?)にビクッとするものの、表向きは平静そのものだ。
それでも、庚申山から鋸山へ向かう途中にある背丈程の笹藪地帯は流石に気持ち悪かった。笹藪通過中は1等の景品でも当たったかの様に盛大に熊鈴を鳴らしたモノだ。

暗闇の笹藪地帯。ここの通過は怖かった・・・。


庚申山からは、尾根を外さず進むべき方角を確認していれば道迷いする事もなく、次第に細尾根の岩場となって視界も開けてくる。その頃には日光方面が朝焼けに染まり始めていた。

そろそろ、御来光ポイントを探そう。
だが、その前にクサリ場だ。

鋸山付近は急峻な岩稜となり、クサリやハシゴが連続する慎重さが欠かせない箇所となる。御来光に浮かれてばかりいられないのだ。

慎重な足取りで朝焼けに染まる岩稜帯の登り降りを繰り返し、ピークごとに日の出のタイミングを確認しながら鋸山へと近づいてゆく。そして、鋸山手前のピーク(熊野岳?)で御来光。

おはようございます。
本日もよろしくお願い致します。

朝日に手を合わせる。

日光方面の夜が明け始めました。


あの岩の斜面を登ります。


日光方面からおはようございます。

しばらく日の出の景色を眺めてから、岩稜帯を越えて鋸山に到着した。

鋸山山頂。三山駆けも残すところ奥に見える皇海山のみ。


三山駆けも残すところ皇海山のみ。
鋸山から約120m下り(多少のアップダウンあり)、不動沢のコルから約280m登り返せば皇海山山頂に到着となる。山頂間にゴンドラがあれば・・・なんてよこしまな考えは無しだ。

ちなみに、皇海山の読みは『すかいさん』。
この難読な山名由来を調べると、以下のように変化したと言われている。

  1. 古い記録に残る『サク(笄)山』の表記から『こうがいさん』と呼ばれる。※『笄(こうがい)』は髪掻きの意。
  2. 『こうがいさん』に『皇開山』の漢字が当てられる。
  3. 『皇』を『すべ/すめ』と読む事から『すかいさん』と誤読される。
  4. 『開』が『海』に変えられ現在に至る。


まあ、あれだ。最終的に全くの別物になってしまう伝言ゲームと同じ理屈だ。この調子では今後も『皇海山』でいられる気がしない。間違いなく『sky』は挟まれるのだろうな、と思いつつ皇海山へと向かう。

鋸山からの下りは、歩き辛く滑りやすく崩れやすい。つまり注意が必要だ。下方に他登山者がいる状況であれば、尚更注意しなければならない。

『不動沢のコル』。ここより約280m登れば皇海山山頂です。


『不動沢のコル』まで下ると、群馬県側からの登山道と合流した。
こちらの登山道は、駐車場のある皇海橋登山口から皇海山山頂まで3時間程で登れるため、日帰りや百名山を目標にしている登山者には人気のルートだ。それでもまだ早い時間のため、誰もおらず辺りは静まりかえっている。

いよいよ皇海山山頂へ最後の登りだ。

木々の間から朝日が射し込む静かな山道は、爽やか山歩きを絵に描いたような状況で、その心地よさから修験道歩きである事を忘れてしまう。多少の呼吸の乱れがあっても気分は晴れやかだ。

爽快な気分で皇海山山頂に到着。

到着した山頂は無風で頭上には清々しい朝の青空が広がっていた。樹林帯のために周辺の景観は望めないが、私の他には誰もおらず、森閑としている状況が心地よい。三山駆けとして辿り着いた充実感もあるから尚更だ。

皇海山だけを取り出して考えると、素朴で里山的な印象のため「日本百名山って程の事か?」と思わなくもない。ただ、銀山平を起点とした『三山駆け』を通じて歩いてみると、皇海山は辿り着くべき場所に相応しい立派な山であったと感じられる。

『結果』だけではなく『過程』も重要と言う事か。

もっとも、辿り着いた先が快晴で無風の山頂だったという『結果』も大きな要因だが、ここは私だけの内緒にしておこう。

山頂手前の庚申二柱大神を祀る青銅の剣。庚申二柱大神とは猿田彦大神と妻神・天之鈿女命です。


三山駆けの末、皇海山山頂に到着。


どうですか、この皇海山山頂の神々しさ。(天候次第)

さあ、戻ろう。

私にとって皇海山は終着地点ではなく折り返し地点。原向駅がゴール地点となる本日の予定からすれば、まだ行程の半分以上は残っている。
それでも修験道効果か、不思議と清々しい気分で足取りも軽やかだ。

まだこの時は。

下山を開始すると、ちらほらと登山者が登ってきた。早朝ならではの爽やかな挨拶を交わし、素晴らしかった皇海山山頂の様子を伝える。そう言えば、人と出会うのは本日始めてだ。
その後、庚申山荘の宿泊で一緒だった登山者ともすれ違い、私と同じ三山駆けの同志としては、無事で素晴らしい山行になるように願わずにはいられない。

個人的に修験道歩きは六根清浄、つまり無心で歩くものと理解しているが、祈願を込めた『願掛け』として取り組むスタイルもあるようだ。元から無心で歩けていない私も、個人的な思いを胸に庚申山荘まで戻ってきた。

また鋸11峰を越えて戻ります。


岩場で自撮り休憩。


無事に庚申山荘へ戻ってきました。

長い林道歩きの始まり。


軽い昼食をとってから、秋を感じさせる山道を下山。山道終了を告げる『一の鳥居』までやって来た。

あれ?足裏が痛い。

山中ではさほど気にならなかったが、林道に差し掛かると足裏に激痛が走る。どうやら足裏の妙な部分に特大のマメができているようだ。しかも両足に。靴紐の閉め具合が悪かったのだろうか。

しかし、歩かねばならない。
こんな時こそ、修験道の真骨頂『無心歩き』を発動だ。

思考回路を完全にOFFにして歩行マシーンと化する。

痛みを客観視しながら何とか林道を歩き終えて『かじか荘』に到着。受付で路線バスが出ていないか訪ねてみたものの、案の定「ありません」との返答をされ、あわよくば「(車で)乗せていってあげようか?」との返答を期待していた自分自身を冷ややかな目で見る。

駅まで歩き通した感慨は絶大に違いないぞ!と、自分に言い聞かせて舗装道路を歩いていると、原向駅まで残り1キロのところで突然、声をかけられた。

親切ドライバー:「乗っていくかい?」
歩行マシーン(私):「ハイッ!」(躊躇なく満面の笑みで)

歩き通す感慨?
そんな自己満足より、今回の『三山駆け』によって相手の好意を無にしない感謝できる人間になったのだ。
そう言う事にしておこう。

※乗せてくれた方も『三山駆け』経験者でした。ありがとうございました。

ヨメへの土産(無料)。意外と好評でした。


かくして今回の山行は無事に終了した。

天気にも恵まれ、辿り着いた皇海山は百名山の名に恥じない立派な山であり、伝統的な三山駆けの充実感は非常に大きいものとなった。流石、自分の足で駅から駅まで歩いただけはあったな。

え?何か問題でも?

漫画的山行記録

2時半起床。
宿泊地の庚申山荘から庚申山~鋸山~皇海山の『三山駆け』に出発です。

満点の星空の下、出発。(手持ちのカメラではこれが限界・・・)

あちこちに光る眼が。

確認しながら迷う事なく庚申山へ向かいます。

庚申山に到着。

まだ周囲は真っ暗。
先は長いので進みます。

熊鈴を必要以上に鳴らしながら暗闇の笹藪に突入。

鋸山っぽいシルエットが見えてきました。

日光方面の夜が明け始めます。

このクサリ場を下ります。

あの朝焼けに染まっている岩場を登ります。

まずは岩場を少々トラバース。

夜が明けつつあります。

御来光。

おはようございます。

御来光を拝めたし、皇海山目指してもうひと頑張り。

ステップの広いハシゴを下ります。

朝焼けに染まる剣ノ山。

この辺りは険しいので慎重に。

鋸山に到着。残すは向こうに見える皇海山のみ。

倒壊も時間の問題か。

皇海橋登山口からの合流地点となる『不動谷のコル』に到着。

早朝の静けさを感じながら最後の登り。

富士山が見えます。

もう少しで山頂。

山頂手前の庚申二柱大神を祀る青銅の剣。庚申二柱大神とは猿田彦大神と妻神・天之鈿女命です。

三山駆けの末、皇海山に到着しました。

どうですか、この神々しい皇海山山頂。(天候次第)

小学時代以来のピース。

さて、庚申山荘まで戻ります。

遠くに見えるのは日光の山々。女峰山は思い出深いイイ山でした。

秋色に染まってきました。

鋸山の皇海山側斜面は崩れやすいので注意。

鋸山の道標に寄りかかって休憩中の図。

クサリ場の連続する岩稜帯を戻ります。

ステップの広いハシゴを登ります。

あちらに見えるクサリ場を登ります。

これから登るクサリ場。

背丈ほどの笹藪漕ぎ。しかし踏み跡は明確です。

岩場と藪地帯を越えて一安心。

皇海山の麓が秋色に浸食中。

庚申山まで戻ってきました。

岩場で自撮り休憩。

行きは暗くて何も見えませんでしたがこんな巨岩があります。

写真では巨岩感が伝わりません・・・。

下りながら巨岩を見上げます。

圧倒的な迫力です。

何となく雰囲気のある祠(?)。

カメラの機能をいじって強制的に秋を強調。

水場でガブ飲み。

庚申山荘まで戻ってきました。

一休みしてから10km先の最寄駅へと向かいます。

標高を下げるごとに深まる秋色。

ああ、気持ちいい。

庚申七滝も見物。

ひとまず一の鳥居まで無事に下山しました。

これから長い林道を戻ります。

黙々と林道を歩くこと1時間。

林道歩き終了。

表登山口から皇海山までの『三山駆け』終了です。

いや、まだ最寄駅まで5km程の道のりが残っています・・・。

駅へ向かう前に、かじか荘で汗を流します。

駅に向かって淡々と歩いていると、親切なドライバーから声をかけてもらい、車に乗せてもらいました。
ありがとうございましたっ!

原向駅に到着。これにて今回の山行は終了。

無人駅で電車を待つのも旅情があります。

最後にヨメへのお土産(拾いモノ)。意外と好評でした。

伝統的な三山駆けによる皇海山歩き。
皇海山は百名山の名に恥じない立派な山でした。

おわり

漫画的山行記録
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本日の山行情報

単独行/2日目/小屋泊/8時間以上歩行/電車・バス登山

庚申山(こうしんざん)
標高1892m
鋸山(のこぎりやま)
標高1998m
皇海山(すかいさん)
標高2143m
詳細(外部リンク)

本日のスケジュール

庚申山荘[着] 03:15 - [発] 03:15
 ↓ 55分 
庚申山[着] 04:10 - [発] 04:20
 ↓ 100分 鋸尾根
鋸山[着] 06:00 - [発] 06:15
 ↓ 70分 
皇海山[着] 07:25 - [発] 07:35
 ↓ 70分 
鋸山[着] 08:45 - [発] 09:00
 ↓ 95分 鋸尾根
庚申山[着] 10:35 - [発] 10:35
 ↓ 60分 
庚申山荘[着] 11:35 - [発] 11:50
 ↓ 55分 
一の鳥居[着] 12:45 - [発] 12:45
 ↓ 50分 林道
かじか荘[着] 13:35 - [発] 14:00
 ↓ 60分 舗装道路
原向駅[着] 15:00 - [発] 15:00

行動時間:10時間15分(休憩含む)

本日のおすすめ(お土産/温泉情報)

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