庚申山荘泊まりでヌクヌクと過ごせた昨晩。
お陰で体調は万全だが天気が芳しくない。3時に起きてみると、とても歩く気になれない程の雨が降っている。
ここは布団の中でヌクヌクと待機。
耳をすましていると雨音が次第に弱まってきた。
この程度なら行けそうだ。
ヌクヌクの布団の中で「ちぇ」と一瞬思ったりもしたが、更なる天候回復を期待して軽装で出発した。
小雨の降る早朝。
日の出までは時間があり、辺りはまだ真っ暗。
本来ならば奇岩奇石を楽しめる庚申山も、こうも真っ暗ではただ進むのみ。山道脇に時折現れる巨岩から全体像を想像しながら、ただただ進むのみだ。
急坂をある程度登ると、遠くに街の光が見えてきた。
日光方面だろうか。
街の光は見えても、依然として上空一面には雲が広がっている。
こりゃあ、日の出の時間を過ぎても寒々しい景色しか見れないか・・・。
こうなれば、もう無心で登るしかないな。
そんな無心の歩みで、難なく庚申山山頂に到着。
真っ暗で肌寒い中、軽い朝食をとる。
こうして振り返ると、「辛い思いして何やってんだか・・・」と思ってしまう。
しかし、歩き始めて間もない早朝の時間帯では、新たな体験への期待感で一杯なのだ。ヌクヌクの布団の中では味わえないモノが間違いなくあるのだ。
朝食を済ませ、改めて出発。
ここからはアップダウンを繰り返す稜線歩きとなる。
鞍部では背丈程の笹藪が生い茂り、山道は全く見えない状態だ。しかし、慌てることなく目を凝らすと何となく道筋が見えてくる。もっとも稜線に乗っている以上、方角を確認し、尾根を外さない限り迷うことはない。
心置きなく笹藪を漕いで、ワッセワッセと次なるピークへ進む。
薬師岳、白山を越え、鋸山に近づくたびに山道の雰囲気が荒々しくなってきた。
雨は止んでいるが、濡れた岩場に垂れ下がるほぼ垂直のクサリ場はキケン極まりない。滑落などしないように細心の注意を払って進む。
ピークに達し、改めて登降した岩稜を眺めてみると、「あそこを越えてきたのか!」と、ちょっと自分が誇らしく思えてしまう。
ヌクヌクの布団の中ではこうは思うまい。
そして無事に鋸山に到着。
相変わらずの天気で眺めは今一つ。
それどころか雨も振りだし、皇海山方面は雨雲の中へと消えている。
ここまで来たので今回はこれで満足。
皇海山はまたの機会にしよう。
ここからは『六林班(ろくりんば)峠』経由で庚申山荘へ戻る事にする。
昨日、実際にこのルートを歩いた方の話を聞く限り、笹藪漕ぎが延々と続き、この区間だけは昭文社の『山と高原地図』に掲載されているコースタイム通りにはいかないらしい。
と言うより、コースタイムが間違っており、1時間は多く見ておかなければひどい目にあうらしい。
ここは自ら検証山歩きだ。
なるほど、噂通りの笹藪。いきなり笹藪レベルMAXだ。
雨に濡れた背丈以上の笹藪を掻き分けて進めば、あっと言う間にびしょ濡れになり、水浸しとなった靴の中などは歩く度に「がぽっ、がぽっ」と音をたてて不快極まりない。
六林班峠を越えてしばらく下ると平坦になり、笹藪レベルも3ぐらいに落ち着く。(※笹藪レベルはイメージして下さい)
しかし、狭いトラバース道で谷側に踏み倒された笹の茎は憎々しい程によく滑る。靴の中のずぶ濡れ具合もあって余計に腹立たしい。
こんな感じのトラバース道を延々と歩き、何度か沢を渡ると笹藪レベルが2になった。
ここにきて天候は回復の兆しを見せ、時折晴れ間も見えてきた。
笹藪レベル1になる頃にはすっかり青空。
突然の強風で枝に残る葉が一気に落ち、最期の見せ場とばかりに枯葉が一面に降り注ぐ幻想的な林の中。
こんな、落葉舞う清々しい秋山を歩けるなんて、これだけでも来た甲斐があったというモノだ。
靴の中はぐっちょんぐっちょんだが。
『山と高原地図』のコースタイムよりプラス1時間多く掛かって庚申山荘まで戻ってきた。
荷物を置かせてもらっている庚申山荘の管理人さんが「おかえり」と出迎えてくれたのが何だか嬉しい。
お世話になった礼を伝えて、ずぶ濡れ靴下をきつく絞ってから下山の途に就いた。
一の鳥居まで下山し、銀山平まで続く林道を歩いていると、後ろからダンプがやって来た。運転席には庚申山荘の管理人さんの姿があり、「荷台に乗っていくかね?」とでも言うかのように、通り過ぎ様にダンプは停まった。
この無言のご厚意に甘え、すかさず荷台に乗り込み、快適に下山。
「また来るときは連絡して。タイミングがあえば(ダンプに)乗せていってあげる。」
と、何の見返りも求めていないそのままの言葉と笑顔を残して走り去る管理人さん。
なんて格好いい人なんだ!
世界最高峰を登ると、こんなふうになれるのか!
※庚申山荘の管理人Mさんはエベレストサミッター(世界最高峰の登頂者)です。
終わりよければ全てヨシ。
ずぶ濡れ笹藪山行もいい経験になったな。