今回の山歩きはまずい判断を連発してしまった。
こんな事を繰り返さないよう、自分への戒めとして記録しておこう。(長いです)
月山の南に位置する葉山へ。
葉山と呼ばれる山の多くは、元々『端山』と呼ばれており、山塊中の端に位置することが由来となっている場合が多い。今回の目的地もこれに当てはまり、他の葉山と区別するために地域名を頭につけて村山葉山とも呼ばれている人気の山だ。
前日の内に登山口のある葉山林間キャンプ場でテント泊。翌早朝から登り始め、『C』の字に延びる稜線を歩いて、最寄り駅まで下山するスケジュール。
当然残雪があると思ってはいたが、葉山林間キャンプ場に続く林道は積雪タップリだ。
麓と比べるとまるで違う積雪状態に少々戸惑ったが、ここからは歩くしかない。
車で送ってくれた家族に礼を言い、徒歩で葉山林間キャンプ場へと向かう。
沢沿いの林道をボチボチ歩いてゆくと積雪量が増してきた。
思いの外、林道の状態が悪く、小さな土砂崩れ現場や雪解けで沢の水勢が激しい事もあり、危険を感じさせる箇所がチラホラ出てくる。
そして宿泊予定地にたどり着く前に真っ暗になってしまった。
「明るい内に着けばいい」と、仕事終わりに出発したのがまずかった。
この状況で進む事に危険を感じて、安全そうな場所を確保してテント設営。
しっかり食べて翌日に備えよう。
3時半起床。
小雨が降っている。
「雨に打たれながらのテント撤収はやだなー」と、しばらく様子を見る事にした。天気情報を得るためにラジオを聞いていると「いい天気ですねー」とか言っている。どうやら市街地の天気はいいらしい。
昨日の時点で天気予報が晴れだったので喜んで出発したのだが、山中の天気は別物。単純に天気予報を当てにしたのはまずかったか。
雨が弱まったところを見計らってテントを撤収。スケジュールも遅れている事だし張り切って葉山に向けて出発した。
しばらく歩いていると小雨から雪に変わった。
雨よりはいい。
途中、カーブの多い林道歩きに嫌気が差して林道を外れてショートカットし、林の中を散策しながら進む。
時折、突然の珍客に驚いて野うさぎが飛び跳ねて逃げてゆく。そしてチラリと振り返り、こちらの様子を伺う。
可愛らしいと思いながらも「旨そう」と思う私の思考はまずいか。
ようやく葉山林間キャンプ場のある、葉山市民の森に到着した。
昨日の内に着いている予定で、今日は出発も遅れているから大幅なタイムロスだ。この先は様子を見つつスケジュール変更も考慮せねば。
改めて葉山の山歩き開始。
山道(岩野コース)は雪に埋もれ、登山口の案内標識が見当たらない。
これは地形図を頼りに登るしかない。
夏道は尾根上にある。
登りやすそうな斜面を選び、尾根を目指して林の中を突き進む。
登るほどに傾斜はキツくなり、尾根に乗る最後の傾斜はパッと見『雪の壁』だ。
登れそうな箇所で何度かチャレンジするがとても登れるモノではない。
この判断はまずいぞ。
一端、普通に尾根に乗れる箇所まで戻る。
ここは急な登りが続くためか、地図には『八丁坂』と記されている。地形図でもその傾斜を確認していたのだから、積雪具合も考慮して最初から尾根に乗っておくべきだった。
無駄とは言わないまでも余計な体力を使ってしまい、八丁坂を登り切ると大の字になって倒れ込んでしまう始末。
「あー疲れた!」と、空を見上げると先程まで降っていた雪がいつの間にか止んでいる。そして晴れ間が見え隠れしている。
まったく青空というモノには励まされる。
ここまで来れば葉山山頂まで気持ちのいい稜線歩きが待っていると思えてきた。
休憩がてら地形図チェック。
葉山までは8つのピークを越えて行かなければならない。
それぞれのピーク自体は小さいものだが、傾斜がキツそうな箇所もある。
積雪状態次第だろうから、まずは現地まで行ってみよう。
最初のピークに到達。
そこにはチョーキレイ!と恥ずかしげもなく言ってしまう景色が広がっていた。
神室連峰や蔵王連峰など、山形を取り囲むように奥羽山脈の山々が途切れることなく連なっている。
山形に生まれ、20代始めまで住んでいた私だが、若い頃は盆地である山形の空を『狭い』と感じていた。それがここから眺める山形の景色はどうだ。山も空も広大で壮観じゃあないか。
もう自然タップリだ。
市街地方面の景色だけではなく、これから向かう真っ白な稜線にも惚れ惚れしながら、次なるピークを目指す。
その場に居るとわかりずらいですが、雪庇の上は間違っても乗らないように。
稜線の進行方向右側は木々もなく積雪で真っ白、真っさらな状態。
そんな所を歩きたい衝動にかられるが『雪庇』と呼ばれる危険箇所だ。風によって稜線から張り出した雪庇に乗ろうものなら、一緒に崩れ落ちてしまう可能性大。
雪庇の崩壊、雪崩を誘発させる『クラック』と呼ばれる雪の斜面にできる亀裂も要注意だ。一見普通の雪面でもその下では亀裂が走っている事もあるらしい。
怖い怖い。
雪の稜線は綺麗なものだが、雪に隠れて地面との境目が分からないのは恐ろしい。雪庇上を歩いた訳ではないが、稜線を進行中にズボッと踏み抜いてしまった時など背筋が凍ったものだ。(単なる藪の踏み抜き)
冷静に冷静に。
景色にうっとりしながらも、緊張感を持っていくつかのピークを越えて行く。(実際には息も絶え絶え休憩しまくりです)
その行程の途中に『百万ドルのドウタン』というポイントがあった。
『百万ドルのドウタン』。枝が空を覆うように広がって見えます。
「ドウタンって何だ?」と思いながら向かうと、そこには存在感を放つ盆栽のような樹木が息づいていた。
漢字で『満天星』と書くドウタンはツツジ科の植物で、下から見上げると枝が空を覆うように広がって見える。この様子を見ると、漢字のチョイスが納得出来てしまい、命名した人物がロマンチストである事は間違いないだろう。
それにしても単位が『ドル』なのは何故だ。
ちなみに別のルート(シャムコース)には『1000万ドルのドウタン』があるらしい。
だから、何故『ドル』だ。
葉山の手前には小僧森、大僧森と言うピークが立ちはだかっている。
小僧森の傾斜、積雪状態は素人目で見る限りヤバそう。
この状況では通常、諦めて引き返すところだが、これまでなかった真新しいトレースがあるではないか。どうやら別ルートから入山しているバックカントリースキーヤーが、スキー板をデポ(残置)して葉山に向かっているようだ。
遠目から見たところ、普通のスキー装備に見えるが、地元のベテラン山屋が春スキーついでに葉山山頂まで足を伸ばしているのだろう。(完全に私の想像)
とにかくベテラン山屋のルートファインディングによるトレース(やはり想像)は心強い。私も行ってみよう。
今思えば時間にゆとりを持って、ここから下山するべきだった。そもそもトレースに頼らず、自分の判断をするべきだった。
この時の判断はまずい。
そして、景観の素晴らしさに欲が出てしまったのもまずかった。
ついつい、あのピークからの景色、そしてそれを越えたところの景色見たさに頑張ってしまった。
この時はそんな事を考えもしなかったが・・・。
小僧森は最後こそよじ登るような格好になったものの、先行者が残してくれたトレースの安心感は絶大。
危なげなく小僧森/大僧森のピークを越える事ができた。
葉山から戻ってきた先行者にトレースのお礼を伝え、この先の状況を教えてもらう。
やはりその雰囲気は『山屋』と呼ばれていた時代からのベテランっぽいぞ。(でも想像)
そんなベテラン山屋に別れを告げ、今回の目的地である葉山山頂に到着した。
朝日連峰、出羽山地が広がる景色が壮観。月山こそ雲に隠れて姿を拝めなかったが、その山々の深さは気軽に立ち入ることのできない神聖な印象すら受ける。
すっかり青空となった山頂で、お気に入りのチリトマトヌードルに凍み豆腐を追加トッピングして頂く。凍み豆腐でタンパク質を補給し、これまで消費したカロリーが補われるのを感じる。
腹ごしらえもした事だし、さてどうするか。
山行計画のルートを変更して、先程のスキーヤーのトレースを辿って引き返そうか。
いや、予定通りのコースの方が時間的に早く下山できる。それに引き返す場合は、小僧森/大僧森のアップダウンがまた待っている。
よし、予定通り葉山神社(奥の院生)へ向かおう。
神社へ向かう(帰ってくる?)小さな足跡。『昔ばなし』のワンシーンのようで微笑ましい。
葉山のお隣にある葉山神社へは、ここ最近誰も来ていないらしく雪面が真っさらな状態だ。
しかし、よく見ると神社へと続く小動物の足跡が残っていた。
神社へ向かう(帰ってくる?)この小さな足跡が何だか『昔ばなし』のワンシーンのようで微笑ましい。
この小動物の足跡に導かれ、ほのぼのした気持ちで葉山神社へ到着した。
当然、小動物の姿はないが、心静かに参拝して遭難防止の願いを込めて鐘を鳴らす。
ここからはいくつかの小ピークを越えたところにある烏帽子岩から、下山ルートの支尾根を下るだけだ。
が、烏帽子岩直下は結構な斜面。手前の斜面の方が緩やかそうだが、雪庇は張り出しているしクラックも無数に走っている。これはダメだ。やはり支尾根付近の安全そうな場所を探そう。
下山ポイントに近づき、雪面を観察していると、いい感じで下りられそうなルートがあった。
「ここなら行ける」と思い、下山ルートの尾根へと下降。
バッチリだ。
後は尾根を間違わずに下っていくだけ。
歩きやすい尾根を快調に下っていくと、雪上に伸びる自分の影が夕暮れを知らせてくる。
それでも急がず騒がず慎重さは忘れず地形図とコンパスを見ながら下る。
あらかじめ間違えやすそうな尾根の分岐点をチェックしている。実際に分岐点を見過ごし、異なる尾根を少し下ってしまったが、私の進むべき方角の間違いをコンパスが教えてくれた。
全く電源要らずの頼りになるヤツだ!(自分の位置が明確な場合に限る)
順調に高度を下げると、突然雪が消えて夏道が現れた。山道脇にはイワカガミのような花も咲いている。
一面雪の世界から30分ほど下っただけで春になるとは。これなら山道も明確だし一安心だ。
ある程度下るとまた積雪状態の山道となり、沢の音が近くなってきた。そろそろ登山口の林道に合流する気配だ。
そして、何やら駐車場らしきスペースが見えて「ホッ」と一安心した次の瞬間、衝撃の事実が。
橋がない。
登山口は沢を越えた所にあるのだが渡る橋がない。
地図を見ても富並本流との出合い手前の支沢を渡るようで場所に間違いはない。
元から橋は無かったのかもしれないが、雪解けのこの時期に飛び石伝いの渡渉は難しそうな水量だ。あちこちうろうろして渡渉ポイントを探すが、そもそも積雪で沢に近づけるところ自体少ない。
この時の焦り振りは写真の記録が一切無い事からも伺える。
一端、腰を据えて考える。
役場などに山道状況を確認しておかなかったのはまずかった。と言うか、この時期に来るのが完全な間違いだ。事前のネットリサーチでこの時期の記録が見つからなかったのはこう言う事か。
反省は後にして、さてどうしたものか。
予備の食糧もテントもあるしビバークでもするか?
いやー、1日の予備日を設けているからビバークは良いとしても明日はどうする?また稜線まで戻るか?
それは避けたいなー。少し上流まで登って沢の様子を見てみようか。
独り会議終了。
まだ明るい内に渡渉ポイントを探すため、登り返す事にした。
少々登り返すと、いい具合の厚みで出来ているスノーブリッジを発見。全面雪に覆われている雪渓では雪の厚みが分からず渡るのは恐ろしいが、発見したスノーブリッジは小規模の雪崩で出来たのか、ピンポイントでいい感じに雪が堆積している。
この発見のおかげで無事に沢を渡ることができた。
渡り切ったら傾斜が緩んで安全を確保できそうなところまで登る。
そして藪を掻き分けて林道方面へと移動。
無事、林道に合流。
ようやく辿り着いた林道では、焦りから解放された安堵感で「あ」に濁点が付く雄叫びを上げる。
が、まだ終わりではない。
奥山に比べて里に近く『端山』と言われていた葉山も、里までは雪の林道(山の内林道)を5キロ程歩かなければならない。
まあ、林道に到達している事だし、休み休み、そして歌いながら自分を鼓舞してボチボチ歩くとするか。
途中、雪崩れで林道が完全に埋まり、デブリ(雪崩で堆積した雪の塊で、春には土砂や倒木等も混ざって崩れ落ちたもの)が山となっている箇所に出くわし、「おいおい、マジか」と思ったが無事に乗り越えて通過。
そんな事もありつつ、林道を歩くこと約2時間。
すっかり日は落ちて真っ暗な中、ようやく人家のある町に到着した。
既に人家があるため雄叫びはナシ。
実は早い時間帯に下山する事を想定していたため、ここからマッタリと駅方面に歩いていく予定だった。
バカだ。
ちなみに最寄りの村山駅まで15km程。
まったくバカげている。
※路線バスが1日数便出ていますが平日のみ
おとなしくタクシーを配車してもらい、運転手さんの地元トークを聞きながら快適に村山駅へ。
疲れてはいるが今回の反省点の多さに目が冴えてしまい、まずかった判断ポイントを振り返りつつ、自分への戒めの意味も込めてこの記事を書きながら帰路に就いた。
恥を忍んでこの記事を公開してしまおう。
記事の長さは反省の深さと言う事で。
そうだ。
下山がすっかり遅くなってしまったため、目を付けていた温泉にも入れず、地元の名物を食する事も出来ず、お土産すらも買えなかったのは実にまずかった。
これができるよう、ゆとりスケジュールと安全山行を心がけよう。