2016年8月23日
飛騨山脈(北アルプス):1泊2日
船窪小屋:ホロリと胸打つ鐘の音。

七倉岳から少し下ったところに建つ船窪小屋。


「ぜひ船窪小屋に行って!」と、知人から勧められた。

船窪小屋は電気のない昔ながらのランプと囲炉裏の山小屋で、手作りの料理が美味しいと評判だ。よく雑誌やガイドブックにも紹介されており、その記事からは登山者から愛されている印象を受ける。

このように「素敵な山小屋だから」と言った理由の他にも、ヨメと私が週末毎に手伝いに登っている奥秩父大菩薩エリアの山小屋『丸川荘』と共通する雰囲気であることも勧めてくれる理由のようだ。

勧められたら実際に行ってみたい私。
それ以上に、ヨメの「行きたい!」オーラが半端ない。

ようし、平日に時間を作って行ってみよう。



七倉尾根はトンネル手前から入ります。


台風接近中のため北日本を中心に大荒れの天気。

宿泊の予約を入れていた日は、タイミングが悪いことに台風通過の予報と重なってしまった。ただ、船窪小屋は台風の経路から外れそうな位置にある。実際に登山口となる七倉山荘駐車場まで行くと、青空が広がる空模様で穏やかな天気となっていた。

これなら行ける。

そう判断したものの、午後には天気が崩れるとの最新情報も得ている。場合によっては途中で引き返す覚悟を持って出発だ。

本日は七倉尾根伝いに船窪小屋を目指し、状況を見て七倉岳付近を散策。その後は船窪小屋の雰囲気を満喫するべくマッタリとさせてもらう、小屋泊ゆとりスケジュールだ。山ではなく山小屋が目的なのだから、このくらいの余裕があった方がいい。

今のところ台風の影響なく穏やかな。


今のところ穏やかな天気の下、樹林帯の急坂を登り始める。

木漏れ日の差し込む山道は風もなく静まり返っており、付近に他登山者がいないことが余計に静けさを感じさせる。こんな『嵐の前の静けさ』を思わせる雰囲気に多少の焦燥感が生じたのか、ヨメとの会話もなく無言で登り続ける。

七倉尾根に乗ると、巨木と巨岩と苔の要素が強まり、静けさが一層増した。台風を意識しなければ森林浴を満喫できる状況だが、「嵐の前の・・・」との思いが幾度となく脳裏を過る。

尾根に乗ってからも急登は続き、『鼻突八丁』の登りでは文字通り鼻が擦れる程の傾斜となる。巨木に囲まれ、流れ落ちるように山道を這う木の根を登るのは、登山と言うよりも木登りに近い感覚だ。

途中、小雨が降り始め「いよいよ荒れるか」と思いきや、また青空が覗き、周囲の眺望も開けてきた。急な登りが終わり森林限界を越えると、北アルプスらしい岩峰の連なる景色が拡がっていた。


流れ落ちるように地を這う木の根。


巨岩の上に巨木立つ。


樹林帯を抜けたー。

船窪小屋に到着。


七倉尾根は北アルプスのほぼ中央に位置していることもあり、常念、槍穂高、立山、後立山と、飛騨山脈の全景をいい具合に見渡せる眺望を楽しめる。そんな稜線上に船窪小屋は建っていた。

「お疲れ様です」と迎えてくれた小屋番さんからお茶を頂き、壮大な景色を眺めながら茶をすする。台風の影響も少なく、この景色を堪能できるとはなんたる幸運。今となっては登山者が少ない静けさも心地よいばかりだ。

天気が崩れない内に付近の散策に出掛けてみる。

船窪小屋のテン場は船窪乗越方面へ30分ほど下ったところにあり、水場は更に数分下ったところにある。散歩がてら水場まで行ってみたのだが、私の知る範囲で最も危険度の高い水場だった。

私の知る範囲で最も危険度の高い水場。


いつ崩れてもおかしくない斜面にあるこの水場は、小屋開きの際に水源を掘り起こさなければならず、危険も伴う大変な作業と伺った。そんなリスクの上で飲むことができる水に貴さを感じる。

七倉岳に登り、東京方面を眺めると上空一面に厚い雲が掛かっていた。水の貴さを感じたばかりだが、あちらでは大雨で大変なのだろうな・・・。

さて、船窪小屋へと戻り、食事の時間まで憩いの時間を過ごそう。

本日の宿泊者は私とヨメを含めて3人。田舎のじいちゃんの家に遊びにきたかのように伸び伸びとくつろがせてもらえそうだ。

船窪のお父さん、お母さんこと松澤さんご夫妻は、60年以上も山小屋や山道を守り続けている。その経験が比較にならないくらい浅い私も、山小屋『丸川荘』を手伝っている身として山小屋維持の御苦労を伺ってみた。

丸川荘とは環境こそ違えど実に興味深い話ばかりで、ひとつひとつ丁寧に説明してくれるその人柄に、多くの登山者から慕われるのが納得できる。

手作りの夕食。


「あなたたちなら大丈夫」

唐突だが夕食中に船窪のお母さんからそんな言葉を掛けられた。

その言葉自体に何の根拠は無くても、数多くの経験をされた松澤さんご夫妻の言葉には理屈では語れない説得力があり無条件に励まされる。何かを継続して守り続けている方特有の深い優しさと温かさがそこにはあった。

「ようし、頑張ろう」

そう素直に思える言葉。これを聞いただけで今回の山行は大成功だ。

ただ、憎い・・・。

せっかく手作りの美味しそうな夕食を前にしているのに、高山病の症状で食欲不振となっている自分の胃袋がひたすら憎いッ!



小雨に打たれながら日の出を眺めます。


翌朝。

小雨は降っていたが雲の狭間から朝日が射し込み、明るい空に巨大な虹が掛かる。この様子を見る限り、天候は回復に向かいそうだ。

高山病の症状もスッカリと治まり、朝食を美味しく頂いてから下山の途に就く。

感謝を告げて船窪小屋を後にする時、「いってらっしゃい」と見送ってくれた松澤さんご夫妻と小屋番さんたち。そして、見えなくなるまで鳴り響く船窪小屋の鐘の音がホロリと胸を打つ。

名残惜しいとはこう言うことか。

湿った木の根の滑りやすさに気を付けながら下山。心配していた台風の影響もさほどなく、山行は無事に終了した。

今回は、期待していなかった景色を楽しめた以上に、船窪小屋の人々が印象に残る山行となった。そんな人たちが集まる船窪小屋は、知人の勧め通りにステキな山小屋であり、人との繋がりを感じさせる山小屋だった。

加えて言いたくはないが、己の標高の弱さにはほとほとガッカリだぜ。



信濃大町の『ヒマラヤン シェルパ』でダルバートを頂きます。


車で信濃大町まで下り、商店街を散策していると気になるカレー屋を発見。

その名も『ヒマラヤン シェルパ』。

シェルパ族の料理人が作る本格的ネパール料理のお店だ。ヒマラヤに関する本だけからの情報で、ダルスープ(豆のスープ)が絶品との認識がある私としては、是非とも食してみたいと思っていたところだ。

それではネパールの基本的家庭料理『ダルバート』を頂きます。

むぅ、美味いッ!

これまでも色々なお店で『ダルバート』と名のつく料理を食べてきたが、これは本物っぽい。ネパールで実際に食べたことも見たこともないが本物っぽい気がする。おかわり自由なダルスープをインディカ米にたっぷりかけてペロリと完食です。

ご馳走様でした。

本物の味を知っている方は是非食べてみて下さい。

漫画的山行記録

船窪小屋に泊まりに行ってきます。

台風接近中なので天気には注意を払って行きます。

七倉登山口のポストに登山カードを入れて出発。

七倉尾根にはトンネル手前から入ります。

では参る。

標高差にして1400mほど登ります。

今のところ台風の影響なく静か。

標高140mごとに案内があります。ワンポイント解説がイイ感じ。

新・旧の山道。

山道を流れ落ちるように木の根が這っています。

チェックポイント『唐沢のぞき』。

木登り感覚で登っていきます。

根っこの間にはこんなキノコや、

奇怪な虫がいました。

チェックポイント『岩小舎』。

のこり半分ッ!

巨岩の上に巨木現る。

ただならぬ存在感を発しています。

チェックポイント『七鞍の森』で小休止。

小雨で植物たちが潤ってます。

急坂の鼻突八丁スタート。

ハシゴが連続します。滑らないように注意。

巨木間をぬって進みます。

鼻突八丁終了。

ミヤマママコナ。

秋に向けてトンボが色付き中。

樹林帯も終盤です。

樹林帯抜けたーッ!

下方には七倉ダム。

チェックポイント『天狗の庭』から下方には高瀬ダム。

森林限界を越えて爽快な青空がお出迎え。

槍穂高連峰もお出迎え。

期待していなかっただけにこの天気はサイコーッ!

まだ花は残っているかな。

お、まだ楽しめそうだ。

可愛らしいミヤマコゴメグサ。

はい、がんばります。

コマクサも残っています。

本日の宿泊地に到着。

小屋番さんからお疲れ様のお茶を頂きます。

立山連峰を眺めながらすするお茶はサイコーッ!

まだ天気が崩れないので七倉岳付近を散策してきます。

正面には不動岳。

小屋から30分程離れた水場まで行ってみます。

どうやら危険な場所にありそう。

途中の憩い。

水場まで下ってきました。

足元はこんな感じ。怖い!

船窪小屋へ戻る前に七倉岳山頂にも寄って行きます。

だいぶ雲が掛かってきました。東京方面は荒れてそう・・・。

小雨が落ちてきたので小屋に戻ってくつろぎますかぁ。

帰りしなにクロマメの実をちょいと摘み食い。

船窪のお父さん、お母さんこと松澤さんご夫妻は船窪小屋を60年以上管理されています。

そんな山小屋に関するお話を伺いながらゆったりとした山時間を過ごします。

ちなみに船窪小屋のトイレは臭わず綺麗。

管理の賜物です。

そして船窪小屋では手作りの食事も楽しみのひとつ。

うわぁ、美味しそうッ!

なのですが・・・

高山病の症状が出た私は食欲不振。

憎い、こんな自分の胃袋が憎いッ!

暗くなってランプに火が灯ります。

船窪小屋は電気のないランプの山小屋です。

船窪のお父さん、お母さん、小屋番の皆さんとゆったりとした時間を過ごします。

翌朝。

無理かと思っていましたが日の出が見れそうです。

朝焼けに染まると同時に小雨が降ってきました。

小雨に濡れながらの日の出もオツなもの。

そして、常念山脈から立山連峰にかけて巨大な虹が掛かります。

高山病の症状は治まったので、朝食を美味しく頂いて船窪小屋を後にします。

「いってらっしゃい」と見送ってくれた船窪小屋の皆さんと鐘の音がホロリと心に響きます。

はい、気を付けて下ります。

霧雨に濡れたオヤマノリンドウ。

ガスが晴れてゆく・・・。

ガスの小窓から餓鬼岳、燕岳方面がチラリ。

飛騨山脈が大呼吸しています。

稜線に別れを告げて樹林帯に突入。

滑りやすいので要注意。

にゅるんにゅるん。

涼しげな山道を下り、

爽やかな登山口へと下山しました。

七倉山荘駐車場へと下山して山行終了。

そして、すぐ温泉へ直行できる利便性の良さ。

しかも、独占ッ!

風呂上がりに冷えたスイカを頂きます。

今回は船窪小屋で色々なお話を伺えて有意義な山行となりました。

松澤さんご夫妻の人柄もあって、船窪小屋は人とのつながりを感じるステキな山小屋でした。

【オマケ】

車で信濃大町へと下り、大町名店街を散策していると気になるカレー屋を発見。

シェルパ族の料理人がオーナーの『ヒマラヤン シェルパ』です。

それでは、本格的ダルバート(ネパールの家庭料理)を頂きます。

むぅ、美味いッ!

ああ、満たされたわぁ。

ちなみに、こちらがヨメの購入したお土産(自宅用)の数々。

恐るべし購買力よ。

おわり

漫画的山行記録
(新規ウィンドウ表示)

本日の山行情報

複数人山行/1泊2日/小屋泊/ハイキング/電車・バス登山

船窪小屋(ふなくぼごや)
標高2450m
電気のないランプの山小屋です。
詳細(外部リンク)
七倉岳(ななくらだけ)
標高2509m

本日のスケジュール

七倉山荘[着] 06:48 - [発] 06:48
 ↓ 304分 七倉尾根
船窪小屋[着] 11:53 - [発] 13:04
 ↓ 27分 
水場[着] 13:31 - [発] 13:41
 ↓ 33分 
七倉岳[着] 14:14 - [発] 14:29
 ↓ 5分 
船窪小屋[着] 14:34 - [発] 07:10
 ↓ 224分 七倉尾根
七倉山荘[着] 10:55 - [発] 11:00

行動時間:9時間56分(休憩含む)

本日のおすすめ(お土産/温泉情報)

この山域の関連記事