ここのところ、富士山周辺を歩きに歩いたので、気分を変えて群馬、長野方面へ行ってみた。
目的地は活火山として今もなお噴煙をあげる浅間山。
事前リサーチでは、ノーマルタイヤの普通車でも登山口(浅間山荘)まで行けるようだ。
そうとわかれば、山歩きに目覚めたらしいヨメを連れて行ってみよう。
起床すると外は雨。しかし、浅間山付近の天気予報は『晴れ時々雪』。
この情報を信じて自宅を出発した。
千葉から高速道路に乗り、群馬に入ると天候は晴れへと変わった。
流石は現代の天気予報。
清々しく朝日が差し込む妙義山を眺めながら長野県へと車を走らせる。
この分だと晴れ渡った青空の下で浅間山も出迎えてくれるだろう。
期待を胸に群馬と長野の県境にある長いトンネルを抜けるとそこは雪国であった。
と言うか、ガスがかかって真っ白だった。
出迎えてくれるはずの浅間山が何処にあるのかも分からない状態で、今朝方降ったのか数センチの積雪もある。
とにかくノーマルな我が家の車を慎重に走らせ、登山口となる浅間山荘(駐車料500円)に到着した。
ガスと積雪で辺りは真っ白。
しかし、来たからには歩かない訳にはいかない。
登山届けをポストに入れて、ガスの中に鎮座しているだろう浅間山へ向かった。
積雪した山道に残る足跡から察するに、2名の先行者がいるようだ。
お陰でわかりづらい山道も迷う事はない。
アイゼンも特に必要なく、一ノ鳥居、二ノ鳥居を難なく越えてゆくと、風にのって硫黄臭が漂ってきた。と同時に、周囲を覆っていたガスが突然晴れ、頭上に牙山の岩峰が姿を表した。
無骨な岩肌が空を突き上げるその雄々しい岩峰は、見入ってしまうほどに魅力的で、無性に惹き付けられる何かが備わっている。
これは惚れる。
性別お構いなしで惹かれる高倉健さんと似たような感じで惚れる。
そんな山容はカッコいいが、読みはカッコ悪い牙山(ぎっぱやま)を見上げる位置に、チェックポイントとなる火山館がある。
火山館は動植物の調査/学習施設兼、避難小屋として小諸市が運営しているステキなログハウス。
館長が常駐しており、この時期にはありがたく、薪ストーブで館内はポカポカだ。
軽く休憩させてもらい、すぐそばにある浅間神社に参拝。
アイゼンを装着して浅間山へ向けて出発した。
ここから浅間山は見えず、なだらかな湯ノ平高原の樹林帯を越えて初めてその山体を拝む事ができる。
とは言え、先程まで見えていた牙山はガスに隠れてしまい、雪もチラついている今の状況では景色を期待できそうにない。
一瞬でもいいから晴れてほしい。
微かな希望を捨てず浅間山へ向かうと、樹林帯が途切れて見通しの良い広い空間に出た。
そして、私のネガティブ予想に反して目の前には雄大に拡がる浅間山の姿が。
でかい。
いや、ドでっかい。
感動を覚える程に雄大なその姿は、山と分類するよりも大地そのもの。
世界有数の活火山だけあって『活きている』感じが伝わってくる。
なるほど、これが俗に言う『大地の鼓動』というヤツか。
【山名由来】
『浅間』の語源は諸説あり、いずれも火山を表している古語である事が山名由来にもなっているようです。
時折覗かせる青空に照らされ、火山活動の痕跡と思われる山面の縦縞模様が良く映えている。
これからその斜面を歩くと思うだけでゾクゾクする。
よーし、レッツ登山。
浅間山は最高地点の2568峰を指すのだが、登山禁止エリアとなっているため、火口から外輪山も含めた一帯を『浅間山』と解釈するのが一般的。
今回はその中でも登山可能エリアの限界である第二外輪山の前掛山を目指す。
前掛山へは直登する訳ではなく、徐々に急勾配となる山面を斜めに登り、第二外輪山の稜線に出てから回り込むルートとなる。
稜線までは片側に傾いた山道が続くため足首が疲れてしまいそうだ。
しかし、何もないこの斜面で、転んだ、滑った等のミスは許されない。
一歩一歩、確実に。
しばらく登ってふと振り返ると、険しそうな岩壁の外輪山列が一望できる標高になっていた。
あれほど迫力のあった牙山もここからでは小さく見え、視界一面に雄大な景色が拡がっている。
空も広い。大地も広い。
何もかもが圧巻だ。
この時点で上空は晴れていたが、厚い雲が近づきつつある。
景色に見惚れてばかりはいられないようだ。
時間が経つにつれて、雄大な景色はガスの中へと消えてしまい、代わりに風と雪が強まってきた。
第二外輪山の稜線に到達する頃には景色もなにもあったものではない。
容赦なく吹き付ける雪と風。
ほとんんど視界も利かず、雪面に残した自分達の足跡が、雪と風によってみるみるうちに消されてゆく。
天候回復は期待できず、目標物が何も見えないこの状況は危険だ。
前掛山を目前にしながらも撤退を決意。
後にヨメから「鼻水が光っていたけど良い判断だった」と、微妙な発言をされたが、無事に下山してこその登山。
それに、鼻水を光らせてこその雪山だ。(※違います)
危険な要素を含んだ状況を脱して、無事に樹林帯付近まで下る。
見上げると山頂付近は厚い雲に覆われていた。
その後、樹林帯散策を楽しみながら火山館、浅間山荘へと下山。
数時間振りに戻ってきた駐車場ではすっかり雪が溶け、見上げれば眩しいばかりの青空だ。
真っ白だった今朝の様子と比べると、別の場所かと思う程の変わり様。
少し前まで吹雪の中にいたとも到底思えない。
今では光らせる鼻水も出てはいない。
こんな青空の下で浅間山を眺めたら、そして歩けたら、さぞかし気持ちいいだろうな。
今回は前掛山まで行けなかったが、これまでのどの山域とも異なる『浅間』らしい雰囲気を充分に堪能できた山行となった。
勿論、最後は浅間山荘の温泉(天狗温泉)で締めくくる事を忘れずに。
鉄鉱成分豊富な赤褐色の天狗温泉で山行を締めくくります。