花粉症デビューしたっぽい。
鼻水、くしゃみは想定内だったが、新手の症状なのかしゃっくりが止まらない。
こんな症状が出始めてから、かれこれ3日目になる。
花粉症?しゃっくり?
そんな事で私の歩行欲を止められるとでも?
年度末で忙しいこの時期にも関わらず山歩きに出発だ。
奥に見える富士山に向かって歩きます。(毛無山/竜ヶ岳は別の方角にあります)
富士山を見たいヨメの希望に応えて、目的地は富士山の西側に位置する毛無山に決定。
富士五湖のひとつ『本栖湖』の西側(端足峠入口)に駐車して登り始める。
の、つもりだったが、青少年スポーツセンターから先は冬季閉鎖中。
事前リサーチ不足を悔やみつつ、青少年スポーツセンターに車を停めていざ毛無山へ。
の、つもりだったが、結果的にその随分と手前の竜ヶ岳止まりとなる。
歩き始めて間も無く横隔膜の強直性痙攣、つまりしゃっくりが出始めた。
「その内、治まるだろう」と高をくくって歩き続けていたが、一向に治まる気配がしない。
長時間の登山運動では、些細な不具合を放っておくと、後々痛い目にあってしまう事が往々にしてある。
静かな山間に「ひっく!」とこだまする度に、横隔膜へのダメージが蓄積され、呼吸が乱れる。
そして、いよいよ横隔膜付近が苦しくなってきた。
何とか見晴台のあるピークまで登って早くも大休憩。
毛無山まで行くのは無理、と己の放つしゃっくりに敗北を認めた瞬間だ。
遮るものは何もない見晴台からは、滑らかに裾野の延びる富士山が一望できる。
距離が近い事もあって、その圧倒的な存在感を前にして、ようやくしゃっくりが治まってきた。
ここから竜ヶ岳山頂までは、富士山を眺めながら笹原のジグザグ歩きとなる。
本来ならば爽快感を得られるこの山道も、1時間程続いたしゃっくり後の重苦しさでやはり呼吸は辛い。
立ち止まりながら、そして富士山の眺望に励まされながら、竜ヶ岳山頂へと辿り着いた。
広々と開放的な山頂からは、富士山はもちろんの事、南アルプスの山々が出迎えてくれる。
そして、毛無山へと続く稜線上には、越えなければならない雨ヶ岳が鎮座している。
これまでの調子では雨ヶ岳も厳しそうだ。
歩いてみたかったが下山しよう・・・。
笹原に浮かぶ白峰三山。右側の北岳は日本第二の高峰です。
来た道を引き返さず、せめて端足峠(はしたとうげ)経由で下山しようと、本日2回目の大休憩後に出発した。
こちらのルートはまだ残雪があり、雨ヶ岳へ続く尾根筋にも結構な雪が残っているようだ。
端足峠方面に下山を開始して間も無く、またしてもしゃっくり地獄が始まった。
今回はかなり苦しい。
数日前から始まった断続的なしゃっくりを止めるため、昨日までネットで色々と調べている。
深呼吸する。
水を飲む。
息を止める。
舌を引っ張る。
突拍子もない質問をされてキョトンとする。
・・・などなど。
ありきたりな方法ばかりで、総じて「こんな方法もあるヨ!」などと、ポップな感じで紹介されているのが、本気で止めたい今の私にとっては腹立たしいだけだ。
しゃっくりに負けまいと山歩きに来た私は、しゃっくりも山もナメていたのか。
休み休み、端足峠から本栖湖方面に下り、本日3回目の大休憩をとる。
ここで個人的に嬉しい発見。
仰向けに寝ていると辛くない。
しゃっくりが止まる訳ではないのだが、横隔膜への負担が軽減されるのか、随分とラクだ。
後はしゃっくりと言う名の嵐が過ぎ去るのを寝て待つばかり。
山中しゃっくりにお悩みの方は、ぜひお試しあれ。
何はともあれ端足峠から本栖湖へと下山。
「海抜ゼロから登った」と言うヨメに、「本栖湖は『海』じゃないよ」と、軽く訂正できる程に体調は回復している。
【海抜マメ知識】
『海抜』とは海水面から測定した高さで、干潮時と満潮時の年間平均を基準としています。
日本では『東京湾平均潮位(TP)』が標高の基準とされています。
下山後は少々荒れた遊歩道を歩き、途中から冬季閉鎖中の本栖湖線に合流して駐車場へと帰還した。
今回はしゃっくりを甘く見て辛い山行となってしまったが、竜ヶ岳は富士山の展望地として実に良い山だった。
【ディープな街、富士吉田を歩く】そこそこ早い時間に下山したので、ヨメの希望により富士吉田にある『カフェ月光』に立ち寄ってみた。
このカフェを皮切りに、富士吉田のディープな一面を知る事となる。
富士吉田の商店街に到着。
商店街を少し歩くと、寂しげなシャッター街とは違い、どことなく活気が漂っている。かといって人で賑わっている訳でもない。
活気と言うより生活感か。
街から発せられる不思議な息吹きを感じつつ『カフェ月光』へ。
大正末期の古民家を改装した雰囲気のある店内でお茶をたしなみ、生粋の富士吉田人の店長から地元温泉情報を入手した。
創業安政三年の『葭之池(よしのいけ)温泉』。
観光客向けのリゾート施設ばかりが目立つこのエリアには珍しく、地元の方が利用する温泉らしい。
温泉の前にもう少し商店街を散策してみよう。
賑わいはなく、いつからか時間が止まってしまったような古びた店が並ぶ。
不思議なのはそのほとんどが絶賛営業中という事だ。
裏路地を覗くと小さな飲み屋の看板が点々と灯っている。
どこも営業しているようだが相変わらず人の気配はない。
不思議な街だ。
『梶原豆腐店』で購入した一丁の木綿を片手に、ブラブラと徘徊を続ける。
古びた看板の『日の出屋惣菜店』で足が止まる。
ガラスの扉越しに店の中を覗くと、魅力的な値段設定の惣菜メニューが並んでいる。
これは注文せねば。
店に入り、コロッケとハムカツを注文。
注文後に揚げてくれるシステムで、待つ事数分で熱々のハムカツが出てきた。
一口、ぱくり。
むっ、駄菓子っぽい。だが、美味いっ!
お世辞にも綺麗とは言えない店で、ショーケースには何時のか分からないしなびたリアルサンプルが並ぶ。惣菜自体のクオリティも甚だ疑問だ。
しかし、何十年と店を維持し続けた歴史を、このハムカツからは感じた。積み重ねられた歴史の味わいを前にすれば、私ごときの評価など無に等しい。
何とも魅力的な旨さ。
御馳走様でした。
せっかくなので富士吉田名物『吉田うどん』を食べるために、途中で見掛けた大衆食堂『べんけい』へと赴く。
富士吉田名物『吉田うどん』。吉田っぽさは特に感じられないが旨い。
観光客なのか地元民なのか分からない、妙にくつろいでいる外国人がいる店内。カウンターに座り、ご主人から『吉田うどん』の裏話を伺いながらうどんをすする。
うどんもさることながら、青唐辛子や山椒を混ぜた『練り味噌』が絶妙に旨かった。
御馳走様でした。
そろそろ、『葭之池温泉』へ行ってみる。
富士急大月線の葭池温泉前駅から、山の方に向かって細い道を進むと、それはひっそりとたたずんでいた。
駅から近く、真上に高速道路が走っているような環境だが、山間の一軒宿風の趣がある。
どことなく上品さを感じるおばあちゃん(女将?)に入浴料500円を渡す。
汗を流したいだけの私にとって、入浴料1000円オーバーが当たり前のこのエリアにおいて、ワンコインで入浴できるのは嬉しい限り。
脱衣場の扉を開けると、浴室との区切りがない筒抜けの空間になっていた。
こんなシステムは初めてだ。
そんな浴室には1人だけ先客が入っていた。
背中一面の入れ墨からして地元の方であるのは間違いない。
若干の緊張感を伴いながら、いつになく念入りに、且つ慎重にかけ湯をして浴槽に入る。
数人入れば満員となる小さな浴槽だが、リゾート施設には無い、地元臭漂う感じが堪らない。
「そっちはひとり?」
「あー、うん。・・・いや、いるよ!」
隣接している女湯からのヨメの呼びかけに、しどろもどろになる若干の緊張感を持って湯船に浸かる。
若干の。
風呂でサッパリした後は、『カフェ月光』の店長に勧められたバーに行ってみる。
知らなければ100%素通りするだろうトタンで覆われた外観のバー。
その名も『バートタン(棒斗胆)』。
看板など無く、外見からは営業しているかも不確か。
初回に入るのは勇気が要りそうな雰囲気だ。
店内に入ると他の客はおらず、辛うじてメニューが見える程度の薄暗い照明に、微かな音量でBGMが流れている。
シンプルな空間には布が垂れ下がり、なぜかブリキのタライがディスプレイされているアバンギャルドな世界観に、ディープな富士吉田ここに極まれりといった印象だ。
(運転手なので)お勧めの中国茶を飲みながらマスターに話を伺うと、明確に自身の思想を持っているようで、この店を構えて17年目になるらしい。
このトタンスタイルには、簡単に真似する事のできない積み重ねられた歴史があった訳だ。多分、ブリキのタライにも。
『カフェ月光』から始まった、ディープな街『富士吉田』散策。
この街は住民の生活のために機能している印象を強く受けた。
本来、街の姿とはこういうモノなのかもしれない。
そして、部外者の私ですらフラリと立ち寄りたくなる、そんな不思議な魅力を持った街だった。
【オマケ:住民のための街『富士吉田』の景色】正末期の古民家を改装した雰囲気のある『カフェ月光』。
老舗レストラン『鮮笑』。カツサンドがイケるらしい。