友人Kと冬の安達太良山へ。
と、予定していたが生憎の荒れ模様。
特に山域では大荒れの可能性大だ。
そこで里山散策に予定を変更した。
目的地は山形県米沢市にある滑川温泉。
福島県との県境付近にある山中の秘湯で、奥羽本線の峠駅から歩いて行く事ができる。
ただ、冬季は林道は通行止。当然、除雪などされていない。
昨日未明からの降雪で、ラッセルしなければならない状況であるのは間違いなく、雪山経験の浅い私にとってはラッセルチャンスとも言える。
友人Kは雪山装備の『三種の神器』と言われる、ビーコン、スコップ、プローブ (ゾンデ棒) を買い揃えている。
まだビーコン購入を躊躇している私としては、お試しで捜索シミュレーションができれば有り難い限りだ。
【雪山装備(雪崩対策)の『三種の神器』】
ビーコン:雪崩が発生した際に、埋没した人を探索したり、自分の位置を発信したりする機器です。
プローブ (ゾンデ棒) :雪崩で埋没した人を探すための折り畳み式の棒です。
スコップ:携帯用に軽量/コンパクト化されたスコップです。
雪の降る中、米沢駅始発の電車で峠駅に到着。
スノーシェッド(スノーシェルター)に覆われた無人の峠駅は『駅』と言うより薄暗い倉庫のようで、男の子が大好きな秘密基地か、はたまたレジスタンスのアジトっぽい雰囲気が漂っている。
下車したのは私たちだけで、静まり返っているプラットホームはいよいよアジト感たっぷりだ。
そんな峠駅には「峠のちからぁ~もちぃ~」と、昔ながらのスタイルで立ち売りに来ているおばちゃんがいた。
今となっては車窓越しの販売ができない電車となって寂しい限りだが、それでも峠駅名物として『峠の力餅』は健在。電車の到着に合わせて、1日数回ほど売りに来ていると言う。(※予約もできるそうです)
他には誰もおらず、沈黙を保っているアジト(プラットホーム)におばちゃんの声がこだまする。
購入しない理由ナシ。
山中で頂く事にしよう。
外は雪。
防寒装備を整えて歩き始める。
意外にも道路は綺麗に除雪されていた。
しかし、スケートリンクのように圧雪された路面に新雪が積もっているモノだから滑る滑る。
何度か足を滑らせながら進むこと数分。
滑川温泉への標識があった。
標識の他、峠駅までの簡略図もあり、『わくわくカーブ あと100m』と記されている。
「単なるカーブだろう?わくわくするような事か?」と内心思いながら、除雪された道路を引き続き進む。
が、これが間違い。
実は除雪されて一本道に見える道路も、未除雪の林道への分岐点となっていた事に気が付かなかった。
標識が出ているのだから分岐があって当然で、よく見ればすぐに気が付くはずなのに『わくわくカーブ』に気をとられ過ぎた。
結局、「えらい遠いな」と感じながらも、1時間半も間違った道を進んでしまう。
山道ならすぐに確認するところ、「まだ、一般道だから」と、油断してしまった。
ようやく間違いを確認し、引き返して合計3時間のタイムロス。
パソコンで作成した大量のデータを突然の停電で無にしてしまう、アレに似たガッカリ感だ。
とは言え、今回は単なる不注意、確認不足に過ぎないな・・・。
気を取り直して、わくわくカーブ(何がわくわくだッ!)付近の分岐点から再出発。
ワカンを装着して未除雪の林道をラッセルで進む。
新雪のためワカン程度の浮力ではあまり意味を成さず、膝下ぐらいまで簡単に埋もれてしまう。
斜度が緩やかなため、手で掻き分ける状況にはならないが、足を引き抜き、前へ押し出す100%足だけのラッセルとなる。
これは股関節に堪える。
進行スピードは夏道の半分以下。
疲労困憊にならないよう、10分毎に先頭を入れ替えながら進む。
蹴りあげられた雪がまっさらな雪面を転がる様子を眺めながら黙々とラッセル。
木々からの落雪で生じた雪煙を全身に浴びながら黙々とラッセル。
この『黙々』とした感じが、私が思う『ラッセル』のイメージにぴったりだ。
股関節も疲れてきて、感覚的にはだいぶ歩いた気分。
もう、滑川温泉付近まで来ている気もする。
期待しながら現在地を確認すると、まだ行程の半分ほど。
・・・ガッカリ。
帰りの電車時間も限られているので、本日は滑川温泉まで行く事を諦めるか?
こうなると先程の3時間ものタイムロスが悔やまれる。
くそっ、わくわくカーブの野郎ッ!!
※わくわくカーブに非はありません。
ここは大人しく諦める事に。
せっかくなのでスコップで雪を掻き、快適空間をこしらえて温かい飲み物と『峠の力餅』を頂いてから下山しよう。
非常時だけではなく冬山での休憩にはツェルトを活用。
食べ応えがありそうな大きさの『峠の力餅』。
ひょいと一口。
う、ウマイッ!
力がみなぎるぞォォォ!
程よい甘さで、すっかり冷やされているのが余計にウマイ。
また峠駅に来る機会があれば『峠の力餅』は外せない。そんな美味さだ。
ちなみに、固くなっても軽く焼く事で、また美味しく食べられるそうです。
力が満ち溢れたところで来た道を引き返す。
時折青空も覗かせた本日の天気も、全体的には荒れ模様。
これまで苦労して作り上げたトレース(踏み跡)も、風と降雪によって元通りの雪面となっていた。
この間、2~3時間程度なのに・・・恐るべし冬山。
再三にわたる100%足だけラッセルで酷使された股関節をきしませながらも、時間的な余裕を持って峠駅へ帰還した。
道間違いによる大幅なタイムロスのおかげで、何の目的も達成できなかった今回の山歩き。
これには反省点も多いな。
しかし、意外と満足げに帰路に就く事が出来た。
電車時間までにビーコン捜索訓練も出来たし、何と言っても『峠駅』の格好良さと『峠の力餅』の美味さのおかげ。
峠駅はスノーシェッド(スノーシェルター)に覆われた無人駅です。