2014年10月11日
上州武尊:日帰り
武尊山:修験道の末に神様からウインク。

初見で読むのは困難な上州武尊山(ほたかやま)。


このところ週末ごとに大型台風が接近している。
今年の紅葉狩りは無理か・・・と思いきや、台風接近前の週末は晴れ。

この機会を逃さず、久し振りに山歩きへと出掛けた。

目的地は上州武尊山。

この山名を迷いなく「ほたかやま」と読める人は、訪れた事のある人か地元住民ぐらいなモノだろう。
知らない者からしてみれば、「ぶそんやま?」と読んで当然であり、「知らないの?」なんてしたり顔で言われても恥じる事など全くない。(経験者は語る・・・)

まったく当て字にも程がある。
(※武尊山自体に非はありません)

そんな武尊山は故深田久弥氏の『日本百名山』の一座であり、山頂からの眺望は素晴らしいと聞いている。
紅葉シーズンでもあるこの時期に、果たしてどんな景色を見せてくれるのか楽しみだ。




早朝の川場尾根。


本日は旭小屋から武尊山を目指すスケジュール。
旭小屋の駐車スペースに車を停め、まだ頭上にお月さんがピカピカしている時間帯に出発した。

暗い山道を進み、沢を渡る。
(あれ?沢なんて渡るルートだったかな?)

少々疑問が浮かんだものの地図を出して確認せず、そのまま進んで2回目の沢を渡る。
(あれ?駐車場から早い段階で尾根に乗るはずだったが・・・)

暗くて分岐点を見過ごしたのだろうと思いつつ更に進むと、案の定、下山で利用予定の林道に出てしまった。

この林道を進んでも結果的に予定のルートに合流できるのは分かっている。
しかし、今回は駐車スペースからすぐの川場尾根を登って武尊山を目指したい思いがある。

武尊山は山岳信仰の霊場であり、修験道が栄えた山。
そして、川場尾根は古来より修験道として利用されている山道だ。

現在は一般山道の川場尾根を進むと、不動岳から前武尊の区間だけは急峻な岩峰の連なる破線ルートとなり、修験道としての意味合いも強く感じられる。

そんな修験道を歩くなら、下りより登り。
これは個人的な考えに過ぎないのだが、妥協はせずに一端引き返し、改めて川場尾根から武尊山を目指す事にした。

この辺りは色付き始めたばかりです。


20分程のタイムロス後、改めて川場尾根登り始めると、周囲が朝焼け色に染まってきた。
木々の間から朝日が差し込む爽やかな樹林帯の上空は雲ひとつない青空が広がってる。

爽やか過ぎる修験道だ。
だが、ここは(なんちゃって)修験者としての自覚を持って六根清浄気分でいこう。

見ず、聞かず、嗅がず、味わわず、触れず、感じず。

好天でテンションの上がる状況でも気持ちを静め、急ぐ事も怠ける事もせず淡々と歩くのだ。
(その割に写真をバシバシ撮っていますが・・・)

『禅定の窟』などの修験スポットを見ながら、不動岳までやって来た。
ここからが破線ルート、つまり修験道の意味合いを強く感じる厳しい山道の始まりだ。

不動岳山頂となる不動岩には不動明王らしきレリーフが埋め込まれ、早くも修験道らしい厳しい雰囲気が漂っている。
切り立った岩峰なので滑落など当然許されない状況だ。

そんな不動岩にはクサリが取り付けられ、岩場の下へと延びている。
ほぼ垂直な岩場のため、下を覗き込んでもクサリの終点を見る事はできない。

最初からこれは怖い。

このクサリ場を下りなくても、不動岩の手前にあった巻き道の存在を確認している。
だが、修験道歩きなのにそれでは意味が無い。

覚悟を決めて、クサリと己を信じて急峻な不動岩を下り始めた。

表向きには冷静な感じを装っているが、人並みに高所が怖い私の内側では、激しい殴りあいの喧嘩が展開される程に恐怖と戦っている。
途中、恐怖に押され気味となってしまい、少々足が震えてしまった。

修験道など論理的に考えるとまったくもって馬鹿げている。
それでも、その困難と向き合い、乗り越えた時の感覚には不思議な魅力があるものだ。

不動岩からの眺め。(妙義方面)


ここより破線ルートの修験道です。


怖いけど下りまーす。

無事に不動岩を下り、次は『カニのよこばい』。
他の山域でも時おり見かけるこの名称は、岩場のトラバース(平行移動)を意味している。

ここではトラバース後に岩場を登らなければならない連続構成となっている。
当然ながら、申し分ない高所感も用意されている。

よし、レッツ修験。
(※現地では至って真面目です)

クライミングシューズならまだしも、ソールの厚い重登山靴では、小さく滑らかな岩の凹凸に重心を預けるには勇気がいる。
ここは慎重になりすぎず、軽快に登った方がよさそうだ。

岩場をトラバース(平行移動)する『カニのよこばい』。


怖いけど登りまーす。


前武尊へ登り返します。奥に見えるのは剣ヶ峰。

前武尊の日本武尊(やまとたけるのみこと)像。


『不動岩』『カニのよこばい』『背こすり岩』と、難所ごとに己の恐怖心とがっぷり四つに取っ組み合いながらも着実に歩みを進め、前武尊へと到着した。

まずは一安心。
休憩がてらに展望の開けた前武尊から赤城山を眺めて、今が旬の『あかぎ(リンゴの品種)』をかじる。

ああ、美味い・・・六根にしみわたる美味さだ。
所詮、なんちゃって修験者の私。破線ルートとなる不動岩辺りからは、六根清浄どころではなかったな。

前武尊には武尊山の山名由来となる、日本武尊(やまとたけるのみこと)の銅像が建てられていた。
元々、武尊山には北アルプスの穂高連峰と同じ穂高見命(ほたかみのみこと)が祀られており、『保鷹山』『穂高山』と記されていた時代があったと言う。
その後、日本武尊が東方征伐時に立ち寄ったエピソードから、『武尊』の漢字を当てたのが現在の山名由来とされている。

読みは『ほたか(穂高)』、表記は『武尊(ほたか)』。
『見た目は子供、頭脳は大人』みたいなフレーズだ。

いいとこ取りで欲張り過ぎな気がしないでもない。

前武尊からは一般山道となり、先程までの岩場の緊張感からは解放される。
(※一部、狭い岩稜箇所があるので注意)

一般山道とは言え、多くの修験者が訪れているのは間違いなく、所々に神様の名が記された祠や石碑を見る事ができる。
宗教は別として、どんな形であれ信仰心を重要視したい私としては、ここに訪れた修験者の思いを感じずにはいられない。

笹原がそよ風に揺らいでいます。


空は青く、岩稜上で吹き付けていた強風は、いつの間にか穏やかなそよ風となっていた。
別ルートからやってくる登山者の姿も増え、山道は老若男女問わず和気あいあいとした雰囲気に変わった。

まだ秋色にならず青々と繁った笹原がそよ風に揺らぎ、その先には武尊山山頂が見えている清々しい景色。
修験道らしい厳しさは無くとも、これはこれで好きな状況だ。

武尊山山頂の手前には第二の日本武尊の銅像が建てられていた。
前武尊の像は手をかざして東方を眺める格好だったが、こちらの像は何とウインクしている。

なんてフランクな神様なんだ。
ウインクなんてお茶目な行為をしている割に、仏頂面なのが日本らしい。

花粉症に悩まされているようにも見えるが、ここはウインク慣れしていない東洋の神様と言う事にしておこう。
その方が個人的に嬉しい。

【片目の日本武尊】
日本武尊が里芋のつるで足を滑らせ、倒れたところに胡麻の穂が目に刺さってしまう伝説が一部の地域に伝えられています。それ以来、その地域では里芋と胡麻の栽培をしないそうです。
ウインクしている日本武尊像との関連は不明ですが・・・。


武尊山(写真左)へ向かって細い岩稜を進みます。


青空だと映える三ツ池。


武尊山山頂です。山頂のローマ字表記は意味あるのかな・・・。

剣ヶ峰山へと続く美しい稜線。


無事に武尊山に到着した。

見事なまでに広がる360度の大展望。
日本百名山の名は伊達ではない素晴らしさだ。

山頂には立派な社殿こそないが、歴史を感じさせる小さな祠がいくつかあり、武尊開山に所縁のある御嶽山大神の石碑も建てられている。
何の願もかけることなく、それぞれの祠や石碑に手を合わせて静かに参拝する。

壮観な景色を眺めながら優雅な昼食をとって昼寝。
どのくらい寝ていたのか、目が覚めると山頂は登山者で大賑わいとなっていた。

せっかくなので、私の密かな趣味である『他人の記念撮影』を手伝わせてもらおう。
うーん、皆さん良い表情だ。

単独の者、友人と登る者、家族で登る者。
登る目的も人それぞれだが、自らの足でここまで登ろうとする気持ちだけは共通だ。

他人の記念撮影は、こんな事を感じられるから止められないのだ。(マニア?)

下山は破線ルートを利用せず、一般山道伝いに川場谷野営場へと下る。

快晴で時間に余裕があると、多少の疲労があっても穏やかな気持ちになれるのが嬉しい。
今回の場合は修験道歩きの効果もあるかもしれない。

この気分なら、常日頃排除したいと思っている悪しき自分の一面も、優しく受け入れる事ができそうだ。

軽やかな気分となって山道を下り終え、林道経由で旭小屋の駐車スペースへと戻る。
紅葉を楽しむには少々時期が早かったようだが、山行自体は満足なうちに終了した。

また来いよ。バチッ!(ウインク音)


今回は修験道を意識した山歩きとなった。

私のようになんちゃって修験者でも『修験』を意識するのであれば、不真面目さを排除して真剣に取り組む必要があるだろう。
山岳信仰として歴史ある山域に入るのだから当然かもしれない。

しかし、真剣な心構えでありながら表向きはフランクにいこうぜ。
ウインクでもしながら。

(※多分、怒られます)




下山後は帰路の途中にあった小住温泉に立ち寄る。
そして、渋滞回避も兼ねて赤城山の麓から秋の夕日を眺め、のんびりと帰路に就いた。

帰りは小住温泉で汗を流します。(620円)


お土産に上州名物焼まんじゅうラスク。あっ、『風』だ・・・。


渋滞回避のためゆっくり過ごしてから帰ります。

漫画的山行記録

旭小屋から修験道を通って上州武尊山へ。

夜明前に旭小屋から歩き始めます。

あれ?沢なんて渡るルートだったかな?(※間違ったので引き返します)

空が明るくなってきました。

まだ色付き始めです。

山道に夜明けがやってきました。

すっかり明るくなった川場尾根。

樹林帯でもも賽ノ河原があります。

修験道で栄えただけあって、多くの神様の名が見られます。

埋め込まれたビール瓶。もしくは醤油瓶?他に代用品はなかったのだろうか。

朽ち果てて山の一部となりつつある道標。

川場谷野営場からの合流地点まできました。

この辺りは倒木が目立ちます。

修験スポットの『禅定の窟』。

険しい岩場の様相になってきました。

見晴らしも抜群。(妙義方面)

不動岩が見えてきました。

ここから不動岩に登ります。

不動岩には不動明王らしきレリーフが埋め込まれています。

不動岩からの眺め。(赤城、妙義方面)

不動岩からの眺め。(皇海山方面)

ここからが破線ルートの修験道です。

よし、レッツ修験。

怖いけど下りまーす。

『カニのよこばい』。ソールの厚い重登山靴ではちょっと怖い。

怖いけど登りまーす。

『背すり岩』を下ります。

下から見るとこんな感じです。

修験道らしく、様々な神様を祀る祠が見られます。

こちらは石碑。

クサリ場を越えた後は前武尊へ登り返します。

修験スポット『胎内潜り』。

ちょっと秋らしくなっています。

前武尊に到着。

オイッス!と日本武尊像。

前武尊で小休止。

赤城山を眺めながらあかぎ(リンゴの品種)を頂きます。

剣ヶ峰。山頂への山道は崩壊して現在は廃道になっているそうです。

岩峰群の一部を登ってみます。(巻道もあります)

写真では見えませんがクサリも整備されています。

岩峰上にはやはり祠。

武尊山(左)が見えてきました。

細い岩稜を進みます。

青々と茂っている笹原に出ました。

家ノ串。

尾瀬のシンボル、至仏山(左)と燧ヶ岳(右)。

ヤマハハコ。

武尊山が近づいてきました。修験道歩きも大詰めです。

『菩薩界の水』。飲みたかったけど出ておらず・・・。

中ノ岳はトラバースして進みます。

三ツ池。青空だと映えます。

前武尊に続き第二の日本武尊像。

日本らしいぎこちないウインクをされます。

武尊山に到着。山頂のローマ字表記は意味あるのかな・・・。

武尊開山に所縁のある御嶽山大神も祀られていました。

こちらの祠には谷川岳でも見かけた可愛い狛犬が。

剣ヶ峰山へ続く美しい稜線。

赤城山を眺めながら本日2コ目のあかぎ(リンゴの品種)。

天気の良い武尊山山頂で少々昼寝をした後、下山します。

また来いよ。バチッ。(ウインク音)

来た道を引き返します。

帰りは巻き道で岩峰群を見上げます。

帰りはクサリ場が連続する修験道を通らず、一般山道伝いに川場野営場へと下山します。

味わいのある祠。

こちらのお地蔵さんは大事にされている様子。

オグナほたかスキー場を見守っているお地蔵さん。

ドライな山アジサイ。

幾重にも重なる山々。(妙義方面)

秋を感じながら下山してゆきます。

まだまだ色付くのはこれから。

川場谷野営場まで来れば山道は終了。

ここを通るのは本日3回目です。(朝に間違ったので)

無事に下山。お疲れ様でした。

帰りは小住温泉へ。

お土産に上州名物焼まんじゅうラスク。あっ、『風』だ。

渋滞回避のためゆっくり過ごしてから帰ります。

おわり

漫画的山行記録
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本日の山行情報

単独行/日帰り/8時間以上歩行/マイカー登山

武尊山/沖武尊(ほたかやま/おきほたか)
標高2158m
詳細(外部リンク)
家ノ串(いえのくし)
標高2103m
詳細(外部リンク)
前武尊(まえほたか)
標高2040m
詳細(外部リンク)

本日のスケジュール

旭小屋駐車場[着] 05:20 - [発] 05:20
 ↓ 120分 川場尾根
不動岩[着] 07:20 - [発] 07:20
 ↓ 55分 破線ルート
前武尊[着] 08:15 - [発] 08:30
 ↓ 85分 
武尊山[着] 09:55 - [発] 10:50
 ↓ 65分 
前武尊[着] 11:55 - [発] 12:30
 ↓ 80分 
川場谷野営場[着] 13:50 - [発] 13:50
 ↓ 30分 林道
旭小屋駐車場[着] 14:20 - [発] 14:20

行動時間:7時間15分(休憩含む)

本日のおすすめ(お土産/温泉情報)

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