『日本一のモグラ駅』の土合駅下りホームから、『日本百名山』の谷川岳を、日本三大急登の『西黒尾根』から登る。
土合駅下りホームは地下にあり、改札口まで500段程の階段を登らなければならないことから『日本一のモグラ駅』と呼ばれ、『関東の駅百選』に認定。
谷川岳はクライミングのメッカで日本三大岩場のひとつ。遭難者数の世界ワースト記録としてギネス認定されており、天候も変わりやすく滑落/遭難事故が多いことから『魔の山』と呼ばれている。
そんな谷川岳は『日本百名山』に選定され、山頂へと延びる『西黒尾根』(一般登山道です)は日本三大急登のひとつとされている。
このように、様々な点で話題性のある谷川岳を歩きに行った。
ホームから改札口まで70m程の標高差。さすがはモグラ駅。
日本一のモグラ駅から歩き始めるとなると、臨時快速列車『一村一山』(上越線)に乗るのが便利だ。
自宅から始発電車で上野駅に行くと、停車している『一村一山』を撮影するために鉄道マニア(?)たちが取り囲んでいる。
確かに味のある列車だとは思うが、鉄道の世界には今ひとつ興味が沸かない私。
さっさと乗りこんでしまい、乗り換えなしで楽々と土合駅に到着した。
ひんやりした空気が漂う地下ホームは、鉄道マニアではない私でもちょっと興奮してしまう不思議な空間だ。(地下マニア)
ただ、お客さんで賑わっているから楽しめているだけで、深夜帯に独り下ろされてしまったら心細いに違いない。
地下ホームから一直線に伸びる階段の先には外の光が小さく見える。
その光を目指してボチボチ登ってゆくと、徐々に空気が暑苦しくなってきた。
改札口に到着する頃にはもう暑い。すこぶる暑い。極めて暑い。
こんな暑さの中、次なる目的地である日本三大急登『西黒尾根』登山口まで舗装道路を歩く。
途中、谷川岳登山指導センターに登山届を提出して、いよいよ西黒尾根登山口だ。
自宅までの終電に間に合うなら日帰りで土樽駅まで行く予定だが、時間的に厳しそうなので途中の避難小屋で1泊することになるだろう。
シルバーウィーク初日と言う事もあり、避難小屋満員の場合を想定してテントを持参、水場がない避難小屋での宿泊も想定して水は多めに用意している。
登山口から見ると最初から急登の西黒尾根。
「この荷物を担ぎあげられる筋力はあるのか?」と思いつつ山歩きスタート。
地形図で大まかな斜度や距離を把握していた事で、荷物を担ぎ上げる覚悟ができていたのか、中々順調な足取りだ。
事前に地形をイメージしておくのは疲労減少に大いに役立つ事を実感。
目印にしていた小ピークを越え、突然現れた下山者に「うおっ!びっくりした―。サルかと思いましたよ。」と何気に失礼な事を言い放ちつつ、淡々と登ってゆく。
そして森林限界を超え視界が開ける。
谷川岳の森林限界となる標高は、地形のせいか地質のせいか、一般的なそれよりかなり低い。
それだけに開けた視界で山頂方面を見上げても先はまだまだ長い。しかも山頂はガスがかかってしまっている。
岩壁のそそり立つ勇壮な谷川岳が見れると期待していたが残念。
そんな萎んだ気分を奮い立たせて『ラクダの背』と呼ばれる岩稜を山頂目指して登り続ける。
クサリ場もあり、急傾斜の岩場でハードなコースにも関わらず、山頂から西黒尾根を利用して下山してくる登山者は意外と多い。
中にはお子さん連れの家族や年配の方なども、続々と下りてくる。
どうやらロープウェイで登って、下山道として利用しているようだ。
下山下手な私は、たった今登って来たばかりと言う事もあり、「下山道では利用したくないな・・・」と、強く思う。強く。
『ラクダの背』を越え、ザンゲ岩まで来れば、岩場の急登は終了。
後は緩やかに登って谷川岳のピークのひとつ『トマノ耳』に向かえば西黒尾根終了だ。
谷川岳の『トマノ耳(薬師岳)』と『オキノ耳(谷川富士)』のように、2つの顕著なピークを持つ山は双耳峰(そうじほう)と呼ばれる。
何故かは分からないが『そうじほう』って語感は無性に好きだ。
ちなみにトマは「とば=入口」の意味で、オキは「おく=奥」の意味を持つそうだ。
こう言った特に役に立たなそうなマメ知識を知っているだけで山歩きがちょっと楽しくなるのも不思議。
谷川岳の最高峰『オキノ耳(谷川富士)』。道標上に可愛らしい狛犬が。
『トマノ耳』に到着。
ガスで何も見えず。
少し粘ったが一向にガスが晴れる様子もなく、『オキノ耳』へ向かう事にした。
『オキノ耳』に到着。
やはりガスで何も見えず。
景色あってこその山歩きなのに残念だ・・・。
雨に降られないだけマシ、と思う事にしてお隣の一ノ倉岳に向かう。
オキノ耳から一ノ倉岳までは結構下ってまた登り返す事になる。
西黒尾根の登りで疲労がたまってきた事もあり、茂倉避難小屋まで行かず、一ノ倉岳山頂にある避難小屋利用を検討しながら歩く。
日本三大岩場の一ノ倉沢。クライミングルートも豊富。
そんな時、雲の間から光が漏れ、突然視界が開けた。
「おおっ!これぞ山歩きの醍醐味ッ!」とばかりに山道の東側を見ると、クライミングで有名な一ノ倉沢が眼下に広がっている。
小説でしか知らない一ノ倉沢には未だに雪渓が残り、切れ落ちている岩壁の迫力はさすが日本三大岩場に選ばれるだけの事はある。
数分経つとまたガスで真っ白になってしまったが、景色が見れると不思議と体力は回復するモノ。
おかげで難なく一ノ倉岳山頂に到着することができた。
笹原が広がり、特に山頂らしい雰囲気こそないが、見晴らしは良さそう。
そんな山頂にポツンと一ノ倉避難小屋がある。
『小屋』と言うよりは『シェルター』の様相を呈している避難小屋。
小屋内は荷物も含めれば2~3人が限界だろう広さだ。
しかし以外にもキレイ。
事前リサーチでは土剥き出し、扉ガタガタのポンコツシェルターと認識していたが、床も扉も綺麗に整備されている。
他登山者が来る気配もないし、快適に一夜を過ごすことができそうだ。
シェルターに入り夕食を済ませて早々と就寝すると、間もなく激しい雷雨が襲ってきた。
屋根を叩く激しい雨音で目が覚めてしまい、雷光に怯えて縮こまる。
それでもさすがはシェルター。
こんな状況下ではテントよりも遥かに頼りになる。
「頼んだぞ、シェルター」と改めて就寝すると、ポタポタと天井から水滴が。
このご時世、雨漏りする所で寝れるなんて、なかなかできないぞ。
これはいい経験をしたものだな!(強がり)